2012年5月13日日曜日

大阪府/府市水道事業統合検証委員会 検証結果報告書


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目 次
これまでの経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
検証委員報告書(総括表)・・・・・・・・・・・・・・・・・2
検証委員報告書(個別意見)
 惣宇利紀男委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
 宮本勝浩委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
 出田善蔵委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
 木村靖夫委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
 中本行則委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
 水谷文俊委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
 八木俊策委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
 矢野秀利委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33


《参考資料》
大阪府営水道協議会の意見・・・・・・・・・・・・・・41
府内市町村アンケート調査の結果・・・・・・・・・・・42
検証委員会開催実績・・・・・・・・・・・・・・・・・53
検証委員会設置要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・54
検証委員名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55

これまでの経過

「水道事業の統合」については、平成20年2月13日(水曜日)、橋下大阪府知事から平松大阪市長へ提案があり、平成20年4月8日(火曜日)、「第1回大阪府知事と大阪市長との意見交換会」が開催された。その中で、知事・市長は、「将来的な事業統合を目指して協議を継続する。」ことで合意した。

6月20日(金曜日)には、第2回の意見交換会が開催され、大阪市から、市が府営水道事業を承継するという統合案が、大阪府からは、一部事務組合を受け皿とする統合案がそれぞれ出され、知事・市長は「事業統合を前提に、組織・方法の両面からの案を検証するため、第三者が参画する仕組みを導入する。」ことで合意し、7 月24日(木曜日)の知事・市長の共同記者会見において、府市水道事業統合検証委員会(以下、「検証委員会」と称す。)の設置を発表した。

検証委員会は、8名の学識経験者等で構成され、その役割は、「府市水道の事業統合の基本的な合意形成に向け、知事及び市長の判断に資するため、専門的・客観的見地から具体の案を検証する。」ことである。

その役割を果たすため、平成20年9月18日(木曜日)に第1回検証委員会を開催し、12月4日(木曜日)までに、4回にわたって、様々な観点から大阪府及び大阪市の具体案について検証を行ってきた。
また、府市水道事業の統合が府内市町村の水道事業へ与える影響の大きさに鑑み、府営水道協議会(府内市町村で構成)との意見交換会を開催するとともに、府内全(42)市町村に対し、アンケート調査を実施した。併せて、府市双方の統合案に深く関わってくる浄水場についても、現場視察を行うなど、精力的に検証を行ってきた。

これらを踏まえ、各検証委員は以下の視点を参考に、府案・市案のそれぞれについて、妥当性・実現可能性等の検証を行った。

○安全・良質な水を安定的に供給できるか。
 (耐震化計画、送配水運用計画、長期安定性(施設の配置・規模)等)
○安価な水を継続的に供給できるか。
 (統合によるコスト削減計画、用水供給単価統一、統合による削減効果額等)
○公平・公正に運営できる組織か。
 (民意の反映、府内受水団体の広域化への対応、統合時期の設定 等)

ここに検証委員会による検証結果を報告する。

検証委員報告書(総括表)

評価項目

惣宇利委員

宮本委員

出田委員

木村委員

安全・良質な水を安定的に供給できるか
送配水運用計画府:専門家による、現実的でないとの意見具申を支持。(P4L37-43)
市:専門家による、現実的であるとの意見具申を支持。(P4L30-36)
意:地勢学的観点から柴島浄水場のウエイトを高める方が府域全体としてより低廉なコストを実現できる。(P5L24-25)
府:災害時や事故時バックアップ機能の強化を図っている点で市案より優れている。(P11L2-5)府:柴島下系の廃止売却は安定供給低下の懸念あり。(P13L14-17)
市:専門家の技術的評価を得た、緻密で確実に実行可能な案である。(P13L23-29)
市:追加的な設備工事等の必要性について、今後検討が必要。(P13L31-32)
市:浄水施設の地域分散の観点から柴島浄水場に集中させることはリスク管理上好ましくない。(P17L6-8)
意:現状を見る限り、津波の影響を受けやすい柴島浄水場に過度に依存することは避けるべき。(P17L11-14)
耐震化等施設整備市:専門家による技術的評価のとおり、耐震性及びリスク管理について府市間に決定的な差異はない。(P4L20-27)府:災害時や事故時バックアップ機能の強化を図っている点で市案より優れている。(再掲P11L2-5)市:系統的な施設の耐震化のほか、危機管理要員を配置する点についても評価できる。(P13L25-26)府:多額の耐震化費用について適切なリスクコントロールの範囲内にあるのか疑問を抱く。(P17L16-17)
意:施設更新時において、用地に余裕がない府の浄水場は将来的にダウンサイジングが求められる。(P17L19-21)
安価な水を継続的に供給できるか
コストシミュレーション府:浄送水コストの削減に係る数値の設定根拠が不可解である。(P5L32-53)
府:市案より低い給水原価を求めるためにあちこち操作された感が拭えない。(P5L2-3)
意:府案・市案のいずれも将来の水供給量については削減が可能。(P11L7-9)府:有収水量の推移に関する根拠説明並びに検証委員会途中での収支計算の変更の根拠説明が不十分。(P14L13-16)
意:水需要の予測について、府下の市町村側の水需要予測を積み上げるなど、さらに精度を高める必要がある。(P14L9-10)
 
費用削減効果府:府の人員削減計画は職員の異動に過ぎず、削減効果とすることは官の非常識として厳しく糾弾されるべき。(P5L12-19)
府:柴島下系の廃止売却には無理がある。(P6L20-22)
市:同条件にすれば市案の方が費用削減効果が大きい。(P6L9-11)
意:府は市の提案も十分考慮し、将来の事業予算削減案を真摯に考えることが大切。(P11L10-13)
意:市は一層の人数、総人件費の削減に努めて欲しい。(P11L14-16)
府:土地売却は今回の検証に含めるべきではない。(P14L20-23)
市:既設埋設管の更新コストのバラツキを織り込んでいるかどうか不明。(P14L29-31)
市:運転管理要員の集約化等による人員削減の目標数値が明記されていないのは課題。(P14L25-28)
市:不利な府の外縁部の市町村への給水に責任を持つことは、これまでのような効率的な運営を保証するものではない。(P17L27-30)
府:府市の水道事業を承継するのは一部事務組合が妥当な選択である。(P18L10-17)
市民・府民へのメリットの創出(用水供給料金の引下げなど)意:単なる広域化は効率化を保障せず、競争メカニズムが与えられて初めて効率化の土壌が生まれる。(P6L47-49)
意:府内各市町村は互いに水を売る自由、選択の自由が保障される方向を作るべき。(P6L49-50)
意:市が事業承継を行うのであれば、府内すべての市町村に同一価格で水が供給できるか、今の事業で大丈夫なのかという点を一層詳細に明示することが望まれる。(P11L17-20)府:最大の関心事である用水供給料金の引下げが示されていない。(P14L17-19)
市:用水供給料金は一部だけ先行して下げるより、同一料金にした方が市町村の納得感が得られる。(P14L32-34)
意:水道料金をいつの時点でいくらまで下げるのか、府民、市民に対してコミットメント(約束)していただく必要がある。(P14L2-5)
市:水道事業に赤字が生じた場合は、協議会の意見を徴するといえども、料金格差の是正などを余儀なくされるおそれがある。(P17L32-34)
公平・公正に運営できる組織か
組織形態(府:企業団vs.市:事業承継)市:専門家による、市案の事業承継は十分合理性があるという意見具申を支持。(P8L33-36)
市:公営企業という半官・半民的なものについては、民間企業間のようなルールの適用はできず、「資産」は無償譲渡、「出資金」は話し合いによる決着になるものと思われる。(P8L19-21)
市:市議会の決定が他の市町村の水道事業の運営に多大な影響を与え、また決定には市町村の意見が反映されないことから、一つの市が用水供給を行うことはやや無理がある。(P11L23-26)
意:府と市から切り離した「一部事務組合的な組織」、「独立法人的な組織」をつくり、水道事業の運営をはかることが公平・公正であり、合理的で効率的である。(P11L26-28,P12L2-4)
意:府・市・府水協が参画し、府民全体の便益を維持するために、組織が独立的に責任を持って運営に努めるべき。(P11L28-30)
府:企業団方式は、現行法で可能な選択肢の一つであるが、議会の議員定数が30 名であるため、府下の全市町村から代表者を選出して意見を反映するためには、更に法改正などが必要。(P15L8-11)
意:いずれの経営形態を選択するにしても、実際に料金値下げにつながるような運用ルールの設定や仕組みなど、更に工夫が必要である。(P15L5-6)
市:市が府水道を選択的に無償譲受した場合、府議会・府民の理解を得ることが困難であり、府の事業撤退を望むにしても、整理を行わないと実現は難しい。(P18L4-8)
意:企業団による統合後、市の現行水道料金を上限として10年は維持する。その後も原則尊重すれば、会計を一本化しても大阪市民の利益は害しない。(P18L18-19)
民意の反映(府:企業団議会vs.市:協議会)府:府水協との意見交換会で、用水供給単価の引き下げについて、公の場で議論できる場が今までなかったことを確認。(P6L28-31)
府:企業団議会は地方分権の流れに逆行し、民意の反映と言えない。(P6L32-33,L45,P7L33-36)
市:緩やかな協議会方式の方が遙かに住民の意思を反映した意思決定になっている。(P7L37-39)
意:市町村の需要見通しについても、現時点で住民と自治体との間で真に民意を反映できているかという問題も指摘されている。(P8L6-8)
市:市議会の決定が他の市町村の水道事業の運営に多大な影響を与え、また決定には市町村の意見が反映されないことから、一つの市が用水供給を行うことはやや無理がある。(再掲P11L23-26)
意:府と市から切り離した「一部事務組合的な組織」、「独立法人的な組織」をつくり、水道事業の運営をはかることが公平・公正であり、合理的で効率的である。(再掲P11L26-28,P12L2-4)
意:府・市・府水協が参画し、府民全体の便益を維持するために、組織が独立的に責任を持って運営に努めるべき。(再掲P11L28-30)
府:府水協の現状から、企業団方式で料金値下げのインセンティブが働くかは疑問。(P15L12-13)
市:料金等の重要事項の決定が大阪市議会で行われることに対する懸念があり、協議会についても受水市町村の意見がどこまで反映されるか十分に明らかにされていない。(P15L18-20)
市:協議会における決定事項について、大阪市議会に対して拘束力を持たせるなどの仕組みを導入すると共に、構成市町村との共同所管としてスタートすることが必要ではないか。(P15L21-23)
市:料金格差維持のため会計を区分し、大阪市以外の市町村への耐震化投資等があいまいな中では受水市町村の不安はぬぐえない。(P18L37-39)
市:協議会方式では将来にわたり公平・公正に運営される保証はない。(P19L1-3)
意:統合組織は一部事務組合(企業団)が妥当。(再掲P18L10-17)
意:受水水量に応じた議員選出等により企業団による民意の反映は十分になされ、最大受水者の大阪市が意見をリードすることとなる。(P19L13-16)
意:公平性は府案は市の案よりはるかに高い。大阪市を含めた受水市町村の意見がすべてであり、過大な投資に対する牽制が働く。(P19L16-18)
総合的な評価
府案・市案に対する評価 など意:浄水場については、市柴島浄水場を軸とした展開が望ましい。(P8L44-46)
意:市町村間で自由に水の売買ができる仕組みを作り、徐々に水平統合や垂直統合などを進めていくべきであり、協議会方式の方が柔軟で適切。(P8L48-P9L5)
意:ステップとしては、(1)用水供給事業の投資抑制、(2)府から市への事業承継、(3)市町村間ネットワークの拡充、(4)水平統合の推進、(5)府内水道事業の一元化、(6)水道事業体の地方行政独立法人化等のようなコースが考えられる。(P9L5-8)
意:広域的自治体は行政活動に専念し、市町村は事業に専念するという役割分担が、道州制に向けた方向性である。(P9L29-31)
市:市が府内水道事業の全てを継承するのはかなり難しい。(P11L32-33)
市:一つの市議会が府内全ての市町村の水道に関する事項を決定することや、その決定に他の市町村が参画できないのは「民意が反映されている」とは言いがたい。(P11L33-P12L2)
意:組織防衛ではなく、府民や市民の立場に立った行政を行うべき。(P12L5-6)
意:統合完成までの助走期間は、府市は互いに譲り合って、良質で安価な水を安定的に供給するように協力し、両者がダウンサイジングをはかるべき。組織統合に向けて、府も市も「譲れるところ」を明確に提案すべき。(P12L11-14)
意:府民・市民に情報の公開を行うべき。(P12L15)
府:給水原価の大幅な低減を提案したことは評価できるが、その前提となる各種シミュレーションの信頼性には疑問が残る。(P16L19-21)
府:最大の関心事である用水供給料金について言及されなかった。(P16L23-24)
府:企業団方式は議員定数の問題をクリアーする必要はあるものの、現行法で可能な選択肢の一つである。(P16L25-26)
市:確実に実行可能な案として評価できる。全体として、緻密でしっかりと良く練られた案である。信頼性・実現性の高さが窺える首尾一貫したストーリー性をもった提案である。(P16L28-33)
市:受水市町村の意見の反映について最大の配慮が必要。(P16L34-37)
意:具体性・実現性の観点から市案をベースに統合を考えるべきだが、経営形態は吟味しつつ是非とも統合を実現してほしい。(P16L4-6)
意:安定供給の確保と緊急時の備えを大前提とした上で、府下市町村にできるだけ低廉な価格で供給することは可能。(P16L9-11)
意:一方の案を選択しつつも、相手案の良い点は取り入れるなど、柔軟なスタンスで更に良い案にしていく余地は多い。(P16L12-14)
意:全体最適の視点に立った知事・市長のリーダーシップに期待。(P16L14-15)
意:広域化への対応や更なる経営努力については統合後も引続き検討が必要。(P16L16)
市:選択的に無償譲渡を受けるという手法は、企業でいえば清算を迫るものであり、穏当な主張ではない。市の浄水施設をほぼ存続し、集中管理においても、対象施設の更新状態を無視して、すべての市の施設側から行うという考えも理解しがたい。(P19L35-38)
府:民意の反映については、直接各市町村の水道事業関係に関わるため現行の議会よりもチェック機能が働く。(P20L14-15)
意:市は統合実現に向けて譲歩することが市民の利益に通ずる。(P20L1-3)
意:統合組織への移行を目指すのであれば、民意の反映など課題はあるものの、一部事務組合による組織統合が現実的。(P20L10-12)
意:企業団運営を市が受託すれば、受託の範囲で責任を負えばよく、市案との大きな隔たりもない。(P20L15-17)
(備考)府:府案に対する評価・指摘 市:市案に対する評価・指摘 意:評価項目に係る意見・提案
 ( )内は出典(P=ページ、L=行)

評価項目

中本委員

水谷委員

八木委員

矢野委員


家を購入する際にどのように最良の取引を取得する
安全・良質な水を安定的に供給できるか
送配水運用計画意:過去の事業実績からどちらの案も問題ないと考える。(P21L2-4)府:安定給水の妥当性について市から指摘があり、再チェックが必要。(P28L17-19)
市:専門家の技術的評価を得た上での提案と判断し、特に問題はないと考える。(P28L15-16)
府:府域全体の送水効率と事故時の安定供給の点から府案が適切。(P30L18-19)
市:検証に必要な市内施設整備の具体的な内容を開示すべき。(P30L1-2)
市:費用低減を優先するあまり、集中管理システムの導入時期が遅れ、安定給水に不安が残る。(P30L10-11)
 
耐震化等施設整備 市:専門家の技術的評価を得た上での提案と判断し、特に問題はないと考える。(P28L10-11)市:耐震補強に関する具体的な工法説明がない。(P29L21-23)
市:震災時に大きな管路被害が発生するリスクが高い。(P00L00-)
意:実務者レベルで検討を加え、より良い案にすることが望まれる。(P30L24-26)
意:耐震性の問題は統合問題と直接結びつかない。いかなる事業主体であっても震災対策は必要であり、検証の判断材料とはならない。(P34L25-27)
安価な水を継続的に供給できるか
コストシミュレーション 府:資料提出のたびに前提条件が変動する等により十分な検証ができず、数値の根拠に懸念がある。(P27L1-6)
府:楽観的な水需要予測は経営上問題である。(P26L29-31)
市:算定項目ごとに積算しており、特に大きな問題はない。(P27L27-28)
府市:両案とも低減できることを確認でき、ぜひとも統合を実現すべき。(P31L26-29)
府:水需要が減少しても、ほぼ同様の給水原価になることを確認。また、統合による費用削減で、市内給水原価が低下することにも言及。(P31L3-6)
府:数値が二転三転し、根?も説明できないことからコストシミュレーション、投資削減額とも妥当性が疑わしい。(P37L2-5)
市:詳細なデータの積み上げによるシミュレーションであり、信頼性・実効性がある。(P37L23-27)
費用削減効果意:どちらも今後、施設・設備を縮小し、人員を削減することを提案しており、「安価」な供給を全面に押し出しての提案となっている。(P21L12-13)府:人員削減は行政全体で対応するとしており、このことは大いに評価できるが、その効果を見かけ上の効果による過大評価としないように注意する必要がある。(P27L14-21)
市:経営上の観点から、人員削減効果をコストシミュレーションには入れていないのは特に問題ない。(P28L2-3)
府:長期計画の削減効果以外に施設管理部門や間接部門の統合による人員削減計画を打ち出している。(P31L1-2)
市:組織の統合効果が出やすい人員削減を考慮しないのは疑問。(P31L11-12)
市:水需要の減少により、府の長期計画が見直されたとしても、削減効果額は変わらないという主張は理解できない。(P31L13-14)
府:統合効果は府の試算ほどには大きくならないものと判断する。(P34L4)
府:試算には今後の水需要を過大に見込み、労働コストの削減効果を過大に見込んでいるため、コスト削減が試算どおり進むとは考えられない。(P34L7-8)
市民・府民へのメリットの創出(用水供給料金の引下げなど)意:府案・市案共に将来は安く供給できる提案となっており、「安定的・継続的な供給」に支障がなければどちらの提案でもさほど差があるとは感じられない。(P21L31-33)意:統合効果に関しては、その前提条件や算定方法などを明確化した上で、きちんと評価すべきである。(P26L23-25)市:水需要が更に減少したとしても、これまでどおり施設能力を縮小せずに、将来にわたる安価な水道水の供給が可能かは疑問。(P31L16-18)
市:大阪市民にとって重要な供給料金について言及していない。(P31L19-21)
府市:両案とも会計を分けており、市の水道料金は引上げられない。(P30L34)
意:統合せずに、競争のインセンティブを働かせる仕組みをつくる方が安価になる場合にメリットを享受できるのは一部の地域のみである。(P31L30-31)
意:シミュレーションどおりコストカットが実施され、価格値下げに結びつくメカニズムデザインを構築することが最大の課題。(P38L2-4)
公平・公正に運営できる組織か
組織形態(府:企業団vs.市:事業承継)府:企業団方式は、府市はもとより府下市町村の貸借対照表をそのまま統合することが可能で、市案のように議論の余地がなく簡単。(P23L36-38)
市:引き継ぐ資産を選択するというのは、いささか都合の良い提案ではないかと感じる。(P22L5-10)
市:府の資本金が市の資本金にすり替わる処理よりは、引き継いだ資本金を引継資本金として区分するのが会計処理として妥当。(P23L3-5)
市:将来的に水平統合による新たな経営形態への移行を唱えているのであれば、事業承継ではなく最初から新たな経営形態を採ればよいのではないか。(P24L9-12)
府:規模の不経済から、企業団による府域一元化は弊害が大きい。(P25L11-16)
意:府市の統合よりも、むしろ府下市町村水道を給水人口約80 万人程度のブロックに集約することこそが優先すべき課題である。(P25L27-29)
府:広域化は差し迫った課題であり、国をはじめ水道事業者などにおいても広く認識されている。その意味でも、他市町村の水道が容易に参加できる企業団方式が適切。(P32L8-10)
市:市が承継するという統合案に対しては、受水市町村のアンケートにみられるように、不安や不満の声が多い。(P32L11-12)
市:事業対象区域全域から選挙で選ばれた住民代表が、議決権の行使によって民意を反映する仕組みを欠く点で、組織形態に関する大阪市案は不適切である。(P32L15-16)
意:府民全体のメリットが生まれるよう、統合により経営意思を一元化したうえで、府域全体の民主的なコントロールのもとで水道事業運営を行うことが必要。(P31L32-33)
市:自治体間の事業承継において資産の買取は必要条件ではない。(P38L31-33)
意:出資金等の返還は政治的な課題であり、検証できる問題ではない。府の資産については所有権を府が維持し利用権を市に与える方法もある。(P34L22-24)
民意の反映(府:企業団議会vs.市:協議会)府:大阪市議会で決定する市案より、府下市町村民の民意の反映は可能である。(P24L1-4)
府:議員定数の問題は、ブロック単位で議員を選出する等によりある程度の解決を図らざるを得ない。(P24L5-8)
府:単一組織内に複数の水道会計が併存するやり方はいたずらに混乱を招く。(P25L22-25)
市:府内市町村の経営状況は千差万別であり、各市町村水道が独立したままで、緩やかな連携という形態は現実的な案である。(P26L5-7)
市:府主導の下で協議会や審議会を設置し、そこで重要項目の決定を行うことが望ましい。(P26L14-15)
府:民意の反映方法が法制度的に整備された企業団が最適。(P32L3-4)
府:企業団においても協議会や審議会の設置が可能であるため、これらの設置により充実した民意の反映を可能にするべき。(P32L4-6)
市:事業承継では現在の民主的ガバナンス機能が消滅し、代わりに市議会で重要事項に関する意思決定が行われる。(P32L12-15)
府:府による独占企業体の新設は、府と府水協の実態から、民意とはかけ離れた意思決定がより強固になる。独占的性格の企業団が効率的に運営される保障はない。企業団自体に価格値下げのインセンティブは働かない。(P34L14-16、P35L33-P36L4)
市:市が運営する場合には協議会システムをうまく設計し、全市町村が市と対等の立場で参画できる体制を工夫すべき。(P34L17-18)
市:協議会は受水市町村が市と対等の立場で価格交渉の場として機能することに繋がり、むしろ価格引下げのインセンティブが働く可能性がある。(P36L11-13)
総合的な評価
府案・市案に対する評価 など府:企業団方式は統合時の会計処理の点においてたやすく処理され、実現可能性が高いと判断する。(P24L31-33)
市:市案の統合方法は、なかなか実現困難ではないかと思料される。(P24L29-30)
府:府内水道事業者を全て集約する企業団方式と提案根拠となる数値に大きな懸念が残る。(P28L29-30)
市:協議会などは、府のコントロール下に修正すべきだが、全体としては、根拠となる数字の裏づけがある実現性の高い案である。(P28L30-32)
府:安定供給に関しては、耐震化・施設配置・水運用などの点から、府案が妥当。(P32L32-33)
府:統合組織については、民主的な意思決定が法的に担保されるという点で企業団方式が適切。(P32L33-35)
意:大阪市内の施設整備内容など、情報提供が限られたために、検証が不十分であった部分もある。(P32L29-30)
意:両案いずれでも、一定の統合効果が期待できるので、ぜひとも統合を実現するべき。(P32L31-32)
意:府案をベースとして、統合に向けたより詳細かつ具体的な検討が不可欠。(P32L36)
意:府・市・受水市町村による検討委員会を立ち上げ、より良い計画を策定していくことが必要。(P32L37-38)
府:削減効果を過大に見込むなど、コスト削減が試算どおり進むとは考えられない。(再掲P34L7-8)
市:必要な技術者・専門家集団が確保され、あらゆる状況に対応できるシステムが構築されているという点で大阪市に「一日の長」がある。(P38L10-12)
意:府は事業から撤退することでメリットを見出すべき。(P38L12-14)
意:用水供給事業は大阪市と府内42市町村が参画する形で運営する方が望ましい。(P34L2-3)
意:住民と密接する事業は市町村が運営すべきであり、道州制を見据えれば水道事業は市町村に任せ、府は監督者として関与するべき。(P34L9-13,P38L16-17)
意:府内市町村が府市双方から受水できるよう規制緩和すべきで、価格が競争的となり、コストに見合った適正な水準まで低下し、結果として無駄な過大投資は避けられる。(P39L33-P40L5)

(備考)府:府案に対する評価・指摘 市:市案に対する評価・指摘 意:評価項目に係る意見・提案
( )内は出典(P=ページ、L=行)

府市水道事業統合検証委員会 報告書
検証委員 惣宇利 紀男

検証委員として4回の府市水道事業統合検証委員会(以下、検証委員会と呼ぶ)、1回の大阪府営水道協議会(以下、府水協と呼ぶ)との意見交換会、及び2回の大阪府市の浄水場見学を行った。これらの知見を下に、以下の3点すなわち(1)安全良質な水を安定的に供給できるか(安定性)、(2)安価な水を継続的に供給できるか(効率性)、及び(3)公平・公正に運営できる組織か(公平性)について検証する。とりわけ府市財政の逼迫及び過剰設備という当該問題の背景を考慮し、(2)の効率性に重点を置いて検討する。最後に(4)総合評価を示す。

(1)安全良質な水を安定的に供給できるか(安定性)
安全な水に関しては、国の基準もあり、府市それぞれの試験場等で検査がなされており、水質については、日々微少な差異は見られるものの、すべて基準以内であり、府市間に特段の差異は見られないし、これは両検査場での質疑でも確認された。従って水質については、府市ともに問題なしと判断される。
安定性については、1)施設の耐震化とリスク管理、2)送配水運用計画、並びに3)長期安定性(施設の配置・規模)等が問題となる。

1)施設の耐震化とリスク管理
府の「長期施設整備基本計画(25 カ年、5,400 億円)」(以下、基本計画と呼ぶ)に対し、市からは府南部地域への送水に伴い、事業承継後毎年20億円の浄水施設費を上積みし、優先すべき浄水施設の耐震化の前倒しにより、府域への安定送水に寄与する施設整備が想定されている。
この点については、第4回検証委員会に提出された参酌意見、別添1「事業承継後の施設耐震化とリスク管理に関する技術的評価」(意見具申)(平成20 年9月13日)で、京都大学経営管理大学院教授・京都大学大学院工学研究科教授小林潔司氏は「大阪市が実施した府南部地域への安定送水にかかる信頼度分析及びリスク発生時の影響度分析の検証手法は、十分に信頼できるものであり、これに基づいて計算された市の提案による水道システムの信頼度や影響度は、現行の府の基本計画と比較して大幅に少ない投資であるにもかかわらず、同等レベルの水準を確保できている」(同2p)としており、耐震性及びリスク管理について、府市間に決定的な差異はないという心証を得た。

2)送配水運用計画
主として府南部地域への府案と市による同地域への送水とそれに伴う市内の配水運用の転換などを柱とする市案が対比された。この点については、第4 回検証委員会に提出された参酌意見、別添2−1「水道事業の府市統合に向けた大阪市案の水運用検討に関する技術的評価について」(意見具申)(平成20年9月12日)で、京都大学防災研究所教授戸田圭一氏は「大阪市から提案されている市から府南部地域への送水にかかる配水運用、府整備計画の見直し案については、信頼性が確認された水理計算手法に基づいた十分な実行可能性を有する現実的な提案であると評価する」(同3p)としており、特段の問題はないと考えられる。
また、市の柴島浄水場下系を廃止し、府千里浄水池から東三国連絡管により市へ5万㎥/日を送水するという大阪府の提案内容については、水理計算上では、3 階建て建物に対する直結給水に必要な配水管水圧25m を下回り、別添2−2「水道事業の府市統合に向けた水運用検討に関する技術的評価について」(意見具申)(平成20 年11 月28 日)において、同氏は「大阪府からは、これ以上の具体的な水運用方法が示されておらず、少なくとも現時点で与えられている情報から判断すると、・・・・大阪府の提案内容は、現実的なものではないと考える」(同3p)と判定されている。

3)長期安定性(施設の配置・規模)等
この点については、地勢学的な分析が必要と思われる。先ず、府市それぞれの主力浄水場である村野浄水場と柴島浄水場の立地面を「海抜」と「淀川河口との差」で見ると、村野浄水場ではそれぞれo. p +34.6m、33.2m、一方柴島浄水場ではそれぞれo.p+9.3m、7.9m となっており、地球温暖化や津波の影響等を斟酌しても両浄水場とも安定していると考えられるが、河口からの水位という点では村野浄水場により安定性があると言える。
浄水場の位置と活断層帯との関係を見ると、村野浄水場は生駒断層帯にまた柴島浄水場は上町断層帯に近く、活断層との距離という点ではほぼ同様の環境にあると考えられる。
次に、供給エリアという点で見ると、村野浄水場から各ブロックの突端までの直線距離は、北大阪ブロック(北端の能勢町西北端)、東大阪ブロック(枚方市北東端)、南河内ブロック(河内長野市南端)及び泉州ブロック(岬町南端)で、それぞれ40km、25km、54km及び79kmであるのに対し、柴島浄水場からはそれぞれ39km、23km、43km及び62kmとなっており、柴島浄水場の方が地理的にはより優位な点にある。今回、焦点となっている大阪府南部については、その差は送水コストにおいて顕著である。
次に人口の分布を平成17 年度国勢調査に従って見ると、昼間人口密度(人/㎢)及び夜間人口密度(人/㎢)及び昼間/夜間の人口比率は、府域全体ではそれぞれ4,872人、4,648人及び1.05となっているのに対し、市域ではそれぞれ16,134 人、11,841人及び1.36 となっている。市は府域の中心部に位置し、非常に高い人口密度を持っていることが分かる。ちなみに、昼間/夜間の人口比率1.36 は、現在でも東京都区部の1.35 をも上回っている。
狭い市域に人口が集中しており、柴島浄水場は立地的に規模の経済性が実現しやすい環境にある。一方、村野浄水場は、人口密度が低く、より広域でより遠隔にあり規模の経済性が働きにくい環境にある。他の条件を一定にすれば、人口当たりの平均費用は、柴島浄水場の方が低くなり、地勢学的に見れば柴島浄水場のウエイトを高める方が府域全体としてより低廉なコストを実現できるであろう。市の周辺部に配置された配水池を有効利用すれば、市域全体が一種の貯水池的な機能を持つと考えられる。

(2)安価な水を継続的に供給できるか(効率性)
平成18年度の大阪府下全域の市町村別20㎥(平均的な1 ヶ月の利用量)当たりの価格を概観すると、府内平均は(大阪市を除く)2,717円、大阪市2,016円。給水原価では、大阪府内平均178 円、府用水供給原価82円、大阪市160円(給配水費等を含む)となっている。ここでは府市水道事業の統合によって、府内及び大阪市内とりわけ府内の給水単価並びに総投資額をどの程度引き下げられるかが争点となる。

1)浄送水コストの削減について
検証委員会で問題となった、府案をベースに見ると3 点の疑問が指摘できる。

(1)減価償却費
平成20年より平成38年まで、つまり統合対象期間のほぼ全期間に渡って、統合後のより低い更新投資に基づいた「減価償却費」の方が、より高い更新投資を前提とした現行の基本計画に基づいた「減価償却費」より高い値を示すのは不可解である(資料別紙4)。

(2)有収水量及び動力費
水需要の減退によるダウンサイジングを念頭に置いているにも拘わらず、平成26年度から最終年度の41年度までの15年間に渡って、有収水量を550(百万㎥)に固定した計算が行われているのも不可解である。さらに、平成31年以降は、有収水量が非常に高く一定に固定されているにも拘わらず、動力費が52億円から47億円へ急激に下がり、そのまま最終年度まで堅持されているのも不可解である(資料1)。

(3)事業費削減額
基本計画では5,400億円になっているものを、統合によって平成17年度から平成41年度までの整備事業費は、4,058億円とし、費用削減効果額は1,342億円(別紙3)としている。しかし、収支シミュレーションの試算条件比較によると、平成41年度有収水量年間550(百万㎥)や526(百万㎥)ではこの事業費は変更されていないが、有収水量が年間465(百万㎥)になった時点で、なぜか事業費は3,860億円となり、費用削減効果額は1,540億円に増大しているが、これについての根拠は示されず不可解である。

検証委員会では、府の提案は、有収水量、減価償却費、事業費削減額、維持管理費、企業債借入条件等が何度も変更され、その間に幾度も釈明されたが、正直なところ市案より低い給水原価を求めるためにあちこち操作された感が拭えない。

2)今後25年間の総費用削減効果(概算)
府案では、総計2,775億円、市案では2,080億円となっている。その内訳は、府案では(事業費削減額−2,270億円(うち基本計画−1,540億円、7拡事業−300億円、柴島浄水場更新−430億円)、新規事業+360億円(うち府+200億円、市+160億円)、人件費削減−775億円、土地売却−90億円)、一方市案では(事業費削減額−2,460億円、新規事業+380億円)となっている。ここで府案の人件費削減効果や土地売却などの要素を市案同様不確定要素として除去すると、市案の方がより費用削減効果が大きいことが分かる(府案 参8、参9)。
さらに、この人件費削減効果について、府では府市合計で310人の削減、一人年間1千万円として計31億円、その効果が25年間続くとして775億円という計算である。この効果が府市で折半されると想定されている。府案ではこの310人の半分155人が府の他部門に吸収されるという形で処理されている。これだと大阪府全体としては一人も削減されておらず、すべて一般行政部門で吸収されることになっている。
このようなことが財政難の府市で今後も許容されるのか、このようなことが人員削減効果額と計算されていいものか。これは単に職員の異動に過ぎず、官の非常識として民に厳しく糾弾される話である。
また、土地売却益とされる90億円の大半75億円は、柴島浄水場下系の廃止を想定しているが、その想定に無理があることは、上記(1)−2)送配水運用計画の項で見た通りである。

3)費用削減のインセンティブ
現在の、水道料金(20㎥)は府内(大阪市を除く)平均2,717円、大阪市2,016円。
府下で最も高いところでは3,355円となっている。現在、府からの用水供給単価は大阪府議会で決定され、各受水市町村はそれを受容するという形式になっている。府議会は各市町村からの議員から成り立っており、民意の反映が民主的に行われているように見えるが、今回の検証委員会において矢野検証委員からの質問に対し、実際に用水供給単価の引き下げについて、公の場で議論できる場は今までなかった旨が府水協のメンバーからも公開の場で明らかにされた(検証委員会と府水協との意見交換会 議事録参照(平成20年10月16日)。
民主主義的な形式が準備されていることが、必ずしも民意を反映していることにはならないことに注意すべきである。むしろ民主主義的手続きの名の下に、相対的に高い給水原価が維持され、府の水道事業は黒字、市町村は赤字、民意からの離脱という現実をもたらしてきた側面が非常に強いと考えられる。
このような現象は、大阪府に限らず全国の用水供給事業者と受水市町村との関係に共通する現象でもある。この間の事情を説明する資料としては、委託調査報告書『「地方公共料金の実態及び事業効率化への取り組みについての分析調査」について』内閣府、平成18年3月7日に詳しい。
報告書では、受水市町村は利用者からの厳しい料金引き下げ要求に晒され、用水供給事業者の一層の経営効率化による料金低廉化を求めているが、用水供給事業者は、そのような圧力に晒されず、さらに受水市町村の需要見通しに従って給水施設の整備を行っており、責任水量の大幅な削減や用水供給料金の引き下げには応じがたいという論理が働いていると指摘している。さらには府県と市町村の様々な力関係が影響していることも指摘されることがあるが、これらは地方分権の流れに逆行するものであろう。

4)効率化条件の醸成
単なる広域化のようにエリアの変更はそれ自身、効率化を保障してくれない。売る側には販売の機会、買う側には選択の自由つまり競争メカニズムが与えられて初めて効率化の土壌が生まれる。府内各市町村は互いに水を売買できるようにして売る自由、選択の自由が保障される方向に進むべきである。
大阪府域を含め全国の水道事業の実態を調査した内閣府委託調査『地方公共料金の実態及び事業効率化への取り組みについての分析調査』報告書(概略)平成18 年1 月(財)関西情報・産業活性化センターに従って、最近の状況を要約したキーワードを集めると、以下の通りである。

(1)水道料金の今後の見通しは、現状維持ないし上昇傾向。水道料金が上昇する主な理由は「施設の改修に伴うコスト増」「需要量の減少」「受水費の硬直化」等(同2p)。
(2)需要の今後の見通しについては、用水供給事業者より、用水供給を受けている末端給水事業者の方が、今後、需要が減少すると見ている割合が圧倒的に高い(同2p)。
(3)多くの団体では外部委託を中心とした事業効率化の取組を行っている。ただし、その取組によって料金の引き下げを実現できた団体はほとんどない(同3p)。
(4)事業の広域化・統合化に取り組んでいる団体は約1 割だけであるが、その必要性については、約6 割の団体が感じている(同3p)。
(5)外部委託を中心とした事業効率化の効果は限定的であり、費用の大半を占める資本的経費(施設の新設・補修にかかる減価償却費等)や受水費の増加により相殺されてしまう(同6p)。
(6)団体間の経営条件(料金、施設規模等)の格差が広域化・統合化の大きな阻害要因となっている(同6p)。
(7)設備等の無駄をなくすために、市町村の枠を超えて、改修時期に合わせた施設の統廃合や、施設の共同利用を進める。最初から完全な広域化等を目指すのではなく、取り組みやすいところから手がけていく(同6p)。
(8)「公営」の枠組の中での改革として「マネジメント指向の導入」や「消費者の経営の参画」など(同7p)。

このため例えば、府案で水道企業団方式の好例として挙げられている(府案 参16)佐賀東部水道企業団では、佐賀市がこの企業団方式では逆に不利になることから、現在統合に加わっていない。上記(6)のもとでは(7)の方がよいというのが、大勢を占めているようである。

(3)公平・公正に運営できる組織か(公平性)
ここでは、府案と市案のいずれがより民意の反映につながるか、またそれに伴う会計処理が問題となる。

1)府案の「企業団方式」
府案では、統合後の最終段階として、「大阪府、大阪市、他の市町村など構成団体による一部事務組合方式による水道企業団を組織し、府市町村議会からの議員選出による議決機関として、企業団議会が設けられます。これにより、府域の住民の意思が、議会の議決を通じ公平に反映される仕組みが法制度として担保されます。」(府案 31 p)となっている。
企業団議会は現在の法的条件下では30 代表以上入れないが、仮に実現した場合、例えば43 代表が集まる企業団議会が成立する。各市町村の住民から見れば、わが町から一人の代表が加わった議会の決定を住民全員が受け入れることになる。これが果たして民意の反映と言えるだろうか?
受水する条件を自分の住む市町村議会が受け入れるかどうかを決める市提案の緩やかな協議会方式の方が遙かに住民の意思を反映した意思決定になっているのではないか。この欠陥は上記(2)−4)の(6)で指摘したことでもある。


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2)市案の「協議会方式」
民意の反映については、第4 回検証委員会において、別添3 「「民意」の反映方策」(平成20 年9 月12 日)(社)日本水道協会法律アドバイザー 弁護士 橋本 勇氏の意見も傾聴に値する。橋本氏は、「民意」を用水供給事業者の相手方としての受水市町村自身の意思(利用者意思)と受水市町村の住民自身の意思(住民意思)に二分している。そして、「協議会(市提案)は、独立の法人格を有するものではなく、簡易な組織で、参加団体の独自性を尊重しながら、協調して事務処理を行うためのものであり、その意味においても、事業統合に向けての初期にふさわしいものであるということもできる」(同2p)としている。
また、住民意思の反映については、「需要者と水道用水供給事業者が需要者の意思に応えるとしても、それは受水市町村を通じる以外になく、もしも水道用水供給事業者が需要者の意思に直接答えるとすれば、それは受水市町村の権限と責任を無視することになり、かえって受水市町村の意向に反することにもなりかねない」(同2から3 p)と断言されている。
また、市案における「審議会」に関して、「水道用水供給事業者が附属機関として審議会等を設置するときは、その構成員をどのようにするかは、条例で自由に決めることができるので、学識経験者だけでなく、受水市町村の代表者や需要者を加え、事業計画や予算案などについて諮問し、答申を得ることによって、その妥当性や正当性を検証することができることになる」(同3p)として評価されている。
現時点では、現状の議会による民意の反映方式自体が見直されようとしている。市町村の需要見通しについても、現時点で住民と自治体との間で真に民意を反映できているかという問題も指摘されている。この点については、内閣府国民生活局『地方公共料金分野(水道、下水道、公営住宅)における情報公開の現状と課題』平成15 年1 月29 日が詳しい。
幾つか例示すれば以下の通りである。
(1)「需給見通しと実績の乖離についてデーターを作成し、公開する」(同10p)
(2)「給水原価に占める割合の高い受水費について、受水費の積算根拠を公開する」(同11p)、
(3)「日常的に利用者の意見を反映する仕組みを導入」(同6p)

これらは、従来型の議会制民主主義の課題を指摘するものであり、新しくより民意を反映する仕組みの必要性をも示唆している。

3)事業承継と会計手続き
公営事業という半官半民的なものについては、民間企業間のようなルールの適用はできないので、「資産」については無償譲渡、「出資金」については話し合いによる決着、全体として「事業承継にかかる協定書」締結ということになると思われる。
この点については、第4 回検証委員会に提出された第三者意見として参酌された当日配付資料「水道事業の府市統合協議の市提案における会計手続き等の妥当性、実現性に関する評価について」(平成20 年12 月2 日)公認会計士、現(社)日本水道協会・経営アドバイザー宮田 要氏の評価が参考になるであろう。氏は、「事業承継とは、いわゆる企業合併や企業買収といった概念ではなく、地方公営企業の制度に則り、事業継続を前提として、事業主体のみを変更するというものと考える」(同1p)としている。
また「個々の資産、負債のほか、資本の部に含まれる剰余金、借入資本金、組入資本金については、事業を継承することを前提にすれば、そのまま引き継がれるものと考える。資本のうち、府が出資した出資金(固有資本金、繰入資本金)については、資産の適正評価、潜在債務の有無なども考慮し、その取り扱いを両者で調整すべきものと考える」(同1p)としている。
結論として「大阪市の提案する事業承継は、その妥当性、実現性について、会計手続き的に否定されるものではなく、また、他の水道事業での実例も見受けられることから、十分合理性があるものと考える」(同1p)という判断が下されており、事業承継は現実的な手法という感触を得た。

(4)総合的評価
1)検証結果
府市連携協議は平成18 年2 月からスタートしている。2 年間の連携協議を経て、20年2 月からは府市統合協議として進められてきた。協議が続けられてきたのは、府市共に大幅な施設過剰を抱え、効率化への要請が日々強まってきているからに他ならない。
府市の日量供給能力は476 万トン、過去最大給水量は404 万トン、平成18 年度の最大給水量は324 万トン、給水能力と実績との差は約150 万トンに達している。いずれの方式にせよスリム化は不可避である。浄水場については、立地、人口の有意さに加えて、浄水から給配水までを行っている市の柴島浄水場を軸とした展開が望ましいと判断する。

2)スケジュール
府が提案する企業団方式にせよ、市が提案する協議会方式にせよ、受水市町村を一気に包摂する形での合意形成には無理があり、徐々にできるところから水平統合や垂直統合などを進めていく必要がある。
受水市町村には、広域化への関心が高い自治体もあり、北大阪ブロックから泉州ブロックに至るまで、ブロック内での自己水供給体制の効率化を図る動きも見られる。各市町村間で自由に水の売買ができる仕組みを作り、効率化に向けた動きを支援する活動も必要である。
このような各受水市町村の独自性や民意を尊重しつつ、統合に向けた協議が展開されるという点では、全国の事例検討でも示されているように柔軟性という点で協議会方式の方が適切だと考えられる。これから地方制度改革に対する様々な動きが予想される中で、想定されるステップとしては、(1)用水供給事業の投資抑制、(2)府から市への事業承継、(3)市町村間ネットワークの拡充、(4)水平統合の推進、(5)府内水道事業の一元化、(6)水道事業体の地方行政独立法人化等のようなコースが考えられるであろう。

3)方向性
今回の検証委員会では、地方分権ないし道州制に関する議論は行われなかった。現時点では不確定要素が多すぎたことにもよるが、これからの方向性としては、多少の紆余曲折はあるにせよ道州制が考えられる。道州制になれば府県がなくなり、府は州の立場に移行していくであろう。そうなれば事業部門は益々個々の市町村経営に移行し、州は全体としての水道行政にシフトしていくことになる。『水道ビジョン』平成16 年6 月(平成20 年7 月改訂)厚生労働省健康局でも、アクションプログラム1−2:多様な連携の活用による運営形態の最適化で「・・・情報公開の推進や公的な第三者機関等による公正な業務評価等も実施しつつ、関係各主体の有する長所や専門的知見等の特徴を生かし、地域の中核的な水道事業者が中心となった運営管理の共同化や複数の水道事業者が共同しての第三者委託などの多様な連携により、地域の状況に応じた、水道事業運営形態の最適化を推進する」(同31p)としている。
また、委託調査報告書『「地方公共料金の実態及び事業効率化への取り組みについての分析調査」について』内閣府、平成18 年3 月7 日においても、水道の広域化・統合化について「用水供給事業者はある程度の広域自治体エリアを管轄する形となるため、「事業の統合化」はすなわち末端給水事業者の広域化の促進にもつながる。用水供給事業者に対しては、地域・圏域におけるリーダーシップを発揮して、積極的に末端給水事業者をまとめていく役割が期待されている」(同39p)としている。広域化に向けた受水市町村の動きに対し、府の調整役機能の発揮を望む声は、今回の受水市町村のアンケート結果にも多く寄せられていた。
かくて、広域的自治体は、広域的水道整備計画の策定、水道事業者への指導・監督といった行政活動に専念し、市町村は事業に専念するという役割分担が、道州制に向けた方向性と考えられる。

4)むすびに代えて
府市共に膨大な過剰設備を抱えており、いずれが中心になるにせよ、スリム化・効率化は府民・市民にとって共通の願いであろう。府民・市民の利益という視点に立った判断が下されることを願う。

府市水道事業統合検証委員会 報告書
検証委員 宮本 勝浩

1.総論
21 世紀の日本は、少子高齢化の進展、累積する財政赤字膨張、環境問題の複雑化など多くの問題に直面している。その結果、国および地方自治体はこれまで経験したことのない困難に直面している。特に、国および地方自治体の今後の財政難は未曾有のものになると考えられる。それゆえ、国および地方自治体は、国民のために、国民の便益を損なうことなく、そして負担を増やすことなく、合理化・効率化をはかっていくべきである。その方向性に沿って、大阪府と大阪市は、可能な限り事業や組織の連携や統合を図っていくべきである。この府市水道事業統合検証委員会はその方針に沿って設置されたものであると考えている。
これまでの全4回の検証委員会を通じて、水道事業の統合に向けての大阪府と大阪市の意見に共通点は非常に少なく、逆に相違点が非常に多いことが明確になった。そして、その相違を埋めるための方向性の提案が、双方から十分なされなかったことは誠に残念であった。
しかし、将来の大阪府民、大阪市民の利益を考えて、地方自治体の運営の合理化・効率化をはかるために、水道事業の統合に向けて私見を述べることにする。

2.府市水道事業統合のポイント
今後、大阪府内、大阪市内の水の需要は、少子高齢化、人口減少の時代を迎えて、一層減少するものと考えられる。2008 年1 月1 日には883 万人であった大阪府内の人口は、「国立社会保障・人口問題研究所」の2007 年の予測では、2035 年には738 万人と約145 万人も減少すると予想されている。これは、小さな一つの県の総人口がすべて無くなることを意味している。
したがって、
(1)まず、大阪府、大阪市は、ともにかなりの規模の施設、供給量、人員のダウンサイジングをはかって、全体として最適な組織をつくるべきである。
(2)さらに、災害時や少雨の時にも住民に安定的に良質の水を供給できるシステムをハード面でもソフト面でも確保しておくべきである。
(3)また、大阪府民、大阪市民に過大な負担をかけることのないように、可能なかぎり安価な水を供給すべきである。
(4)最後に、大阪市はもちろんのこと、大阪府内のすべての市町村による民主的な運営が可能な大阪府内の水事業運営システムを確立すべきである。

以上が私の考えるポイントである。

3.論点1「安全・良質な水を安定的に供給可能か」
この論点に関しては、信頼性の高い耐震化の事業計画や、さらに浄水場の3 系統化、送水系統の3 環状化、系統間の連絡管の設置、水運用管理システムの一元化などを提案している大阪府案が、災害時や事故時のバックアップ機能の強化をはかっている点で、大阪市案より優れていると考えられる。

4.論点2「安価な水を継続的に供給できるか」
この論点に関しては、将来の水需要がポイントになる。前述のように、大阪府内の人口の激減、節水志向の進展などを考えれば、大阪府案、大阪市案のいずれもまだ水の供給量案については削減が可能であると考えている。
さらに、今後の施設更新の投資は可能なかぎり削減する工夫をはかるべきである。大阪市は2030 年までの大阪府の事業予算5,400 億円を大幅に縮減できる案を提示しているが、大阪府はこの市の提案も十分考慮した将来の事業予算削減案を真摯に考えることが大切である。
他方、現在の水道事業関係の従業員数を考えれば、ほぼ同規模である浄水という共通事業を考えても、大阪市の人数は、大阪府と比較してもかなり多い状況にあると言える。大阪市には一層の人数、総人件費の削減に努めて欲しい。
また、大阪市案が提唱するように、大阪市が大阪府の水道事業の承継を行うのであれば、大阪府内のすべての市町村に同一で大阪市の予想するような価格で水が供給できるかどうか、その維持経費、施設経費は今の市案で大丈夫なのかという点を一層詳細に明示するこ
とが望まれる。

5.論点3「公平・公正に運営できる組織か」
この論点に関しては、大阪市案のような大阪市が大阪府の事業をそのまま継承することで、実現できるのかどうかについては少し疑問がある。大阪府内の全市町村に水を供給する事業をすべて一つの市が行うことにはやや無理があるのではないかと思われる。一つの市の議会の決定が、他の市町村の水道事業の運営に多大な影響を与え、さらにその市議会の決定には他の市町村の意見が反映されないことになる。基本的には、大阪府と大阪市から切り離した「一部事務組合的な組織」、「独立法人的な組織」をつくり、大阪府内の水道事業の運営をはかることが公平で公正であると思われる。そして、その組織には、大阪府、大阪市、そして大阪府営水道協議会が参画し、大阪府民の全体の便益を維持するために、組織が独立的に責任を� �って運営に努めるべきであると考える。

6.論点4「総合的な評価」
基本的には、大阪市が大阪府の水道事業のすべてを継承するというのはかなり難しいと思われる。制度的に考えて、一つの市の議会が大阪府内のすべての市町村の水道に関する事項を決定することや、その決定に他の市町村が参画できないのは、「民意が反映されてい
る」とは言いがたいように思われる。したがって、水道事業を大阪府と大阪市から分離させ、「一部事務組合化」や「独立法人化」することが公平で公正であり、合理的で効率的であると言える。これからの日本では、国や地方自治体はダウンサイジングをはかり、企業会計を導入し、合理化と効率化をはかるべきである。組織防衛ではなく、府民や市民の立場に立った行政を行うべきである。

7.提案
(1) いきなり水道事業を大阪府、大阪市から切り離して、「一部事務組合化」、「独立法人化」するのが難しいのであれば、一定の期限を定めて、最終的にはその年度で統合を完成させるように努めるべきである。
(2) その完成期間までの助走期間では、大阪府と大阪市は互いに譲り合って、良質で安価な水を安定的に供給するように協力し、さらに将来の最適な規模に合わせて両者がダウンサイジングをはかって行くべきである。組織統合に向けて、府も市も「譲れないところ」ではなく、「譲れるところ」をまず明確に提案すべきである。
(3) 大阪府民と大阪市民に水道事業に関する情報の公開を行うべきである。

府市水道事業統合検証委員会 報告書
検証委員 出田 善蔵

◎安全・良質な水を安定的に供給できるか。
・水道事業を行う上では、コストと安定供給のバランスを保ちつつ、最適な水供給のネットワークを構築することが重要である。
・とりわけ、安定供給の観点からは、水理計算において、"始点、終点及びその経路上の全ての管を忠実に検討対象にして、正確な計算をする"とともに、"計算値と実測値の誤差を考慮に入れて、一定の余裕を確保する"ことにより、供給上 問題がないことを確認することが極めて重要である。これを疎かにすることは、ネットワーク事業者として許されない。

(大阪府案)
・府市それぞれが所有する 合わせて6つの浄水場などの施設を共有財産として活用するとともに、需要に見合った浄水場のダウンサイジングや系統化を行うことは、全体としては、各浄水場の利用率の平準化や事故時のバックアップ機能の強化につながるものであり、基本的な考え方としては評価できる。
・但し、府が提案している柴島浄水場下系の廃止・売却については、浄水施設や配水池の撤去により、配水池容量が大幅に減少し、平時のストック機能が低下するとともに、事故や幹線工事の際のバックアップ機能も低下する懸念があることが検証されたと考える。
・また、送水系統の3環状化及び系統間の連絡管の設置に関する水理計算について、当初、簡素化したモデルでの計算結果しか示されず、第4回委員会でようやく管網計算(ネットワーク計算)結果が提示されたが、スムーズに検証を行う上でも、もう少し早く提示すべきである。

(大阪市案)
・隣接する府市庭窪浄水場の一体運用や大阪市の余剰水の府南部地域への送水により、府の大規模投資を抑制するという考え方は、確実に実行可能な案として評価できる。
・また、地震対策について、施設の耐震化を系統的に進めるとともに、災害や突発事故等の緊急時への対応として浄水場毎に危機管理要員を配置する点も評価できる。
・さらに、水理計算について、全ての管網を忠実にモデル化し、ネットワーク計算をするとともに、専門家に技術的な評価や妥当性を確認するなど、緻密に検討された案である。
・但し、新たに設置する連絡管は巽配水場−藤井寺ポンプ場間の1箇所だけであり、事故時のバックアップ機能としては少し弱いのではないかと思われる。この点、安定給水の観点から、追加的な設備工事等の必要性について、今後検討が必要ではないか。

◎安価な水を継続的に供給できるか。
・安全で安心な水を少しでも安く使用できることは大阪府民、大阪市民の願いである。今後の水道事業においては、できる限り"料金を下げるインセンティブ"が働く仕組みを組み込むべきである。少なくともいつの時点でいくらまで下げるのか、府民、市民に対してコミットメント(約束)していただく必要がある。
・また、水需要(有収水量)の予測は、将来の設備投資に大きく影響するものであり、経営計画の策定の基礎となる非常に重要な指標であると認識すべきである。収支シミュレーションをする際の一変数として、簡単に変更するようなものではないと考える。今後、統合を進めていくにあたっては、府下の市町村側の水需要予測を積み上げるなど、さらに精度を高める必要がある。

(大阪府案)
・近年、水需要は減少しており、今後も人口減少傾向が続くこと等を勘案すると、さらに需要は減少することが予測される。府の当初案において、平成26年度以降の有収水量が5.5億㎥のまま推移するとした根拠について十分な説明がなされていない。
・また、委員会での指摘を受けて、平成26年度以降の有収水量を大阪市案と同じ年間1%減に変更して収支計算を再提出されたが、この変更の説明も不十分である。
・府下市町村の最大の関心事である用水供給料金についても、いつの時点でどれだけ下げるのか言及されなかった。料金の低減効果は府下の市町村や住民のメリットを検証する上で重要な項目であり、それが示されなかったのは問題である。
・余剰施設について、ダウンサイジングは必要であるが、土地の売却まで行い、コストダウン効果に算入するのは違和感がある。そもそも、土地の売却については、統合後、状況に応じて検討すればよいことであり、売却するか、別の用途に利用するかも決まっていない中で、今回の検証に含めるべきではない。

(大阪市案)
・水運用システムの一元化を進めることにより、運転管理要員の集約化等による人員削減が可能だと思うが、その部分における具体的な目標数値が明記されておらず、課題として残っている。評価の重要なポイントであるので、検証ができなかったことは残念である。
・既設埋設管の更新コストについては、埋設時期が一定ではないため、更新年次にもバラツキが発生すると思われるが、こうしたリスクを十分に織り込んで算定されているのか不透明である。
・府下市町村への用水供給単価については、平成25年度に一部の市町村で先行して料金を下げる計画になっているが、府下市町村への供給単価は同一料金にした方が納得感が得られるのではないか。
・土地の売却について、「今後の施設整備費用の削減に寄与することが無く、かつ見込み通り売却益を得ることができるのか不確実な中で新たな支出が伴う」との理由で提案内容に含んでいないのは妥当であると考える。

◎公平・公正に運営できる組織か。
・経営形態については、ステークホルダーとも言える府民の民意を反映できる組織形態にすることが重要である。
・この点、「大阪府案」、「大阪市案」の両案に対して、府下の市町村から問題点の指摘があった。いずれの経営形態を選択するにしても、実際に料金値下げにつながるような運用ルールの設定や仕組みなど、更に工夫が必要である。

(大阪府案)
・府案の企業団方式は、府や市町村議会からの議員参画を通じて受水市町村の意見をより強く反映できる点において、現行法で可能な選択肢である。但し、水道企業団における議会の議員定数が30名であり、府下の全市町村から代表者を選出して意見を反映するためには、更に法改正などが必要。
・現行の大阪府営水道協議会では、これまで実際には 受水単価の引下げが実現しておらず、企業団方式で料金値下げのインセンティブが働くかは疑問である。府民に対する情報公開を一層進める必要がある。組織の形を変えただけにならないよう、例えば、他の自治体の料金水準や値下げの動きを府民全体に情報公開することも有効な手段の一つとなる。

(大阪市案)
・市案では、料金決定等の重要事項の決定が大阪市議会で行われることになっており、府下市町村からも心配の声があがっている。また、協議会の設置も提案しているが、受水市町村の意見がどこまで反映されるかは十分に明らかにされていない。
・協議会における決定事項については、大阪市議会に対して一定の拘束力を持たせるなどの仕組みを導入していくと共に、その協議会は、大阪市の専管組織ではなく、構成市町村との共同所管としてスタートすることが必要ではなかろうか。

◎総合的な評価
・今回の水道事業の統合検討は、今後、大阪府と大阪市の二重行政の解消、行政の効率化が進むか否かの試金石となるものである。サービスの向上の面からも、府市連携のモデルとして注目されており、大阪府民、大阪市民の期待も高い。具体性と実現性の観点から、「大阪市案」をベースに統合を考えるべきと思うが、経営形態は吟味しつつ、是非とも統合を実現していただきたい。
・府市の水道事業の統合によって、大阪府・大阪市・府下市町村の自治体がWin‐Win‐Win の関係になることはもとより、水道供給を受けている大阪府民、大阪市民にメリットが生じるものにならねばならない。安定供給の確保と緊急時の備えを大前提とした上で、統合の効果を最大限にするための設備投資や人件費の削減等をしっかりと進め、府下市町村にできるだけ低廉な価格で供給することは可能であると思われる。
・今回の「大阪府案」、「大阪市案」には、ともに評価すべき点と懸念される点がある。統合に向けては一方の案を選択しつつも、相手案の良い点は取り入れるなど、柔軟なスタンスで更に良い案にしていく余地は多いと認識すべきである。全体最適の視点に立った知事・市長のリーダーシップに期待する。
・なお、広域化への対応や更なる経営努力については統合後も引続き検討が必要である。

(大阪府案)
・大阪府域全体を大きく捉え、最適規模・最適配置の事業モデルを追求するとともに、思い切った人件費の削減など、大胆な案を打ち出すことにより、給水原価の大幅な低減を提案したことは評価できるが、その前提となる各種シミュレーションの信頼性には疑問が残った。とりわけ、水需要予測が十分な説明もなく変更されたが、この水需要予測は将来の設備投資にも大きく影響するものであり、削減効果額も変わってくる。
・また、府下市町村の最大の関心事である用水供給料金についても、いつの時点でどれだけ下げるのか言及されなかった。
・一方、経営形態については、府案の企業団方式は、議員定数の問題をクリアーする必要はあるものの、現行法で可能な選択肢の一つであると思う。

(大阪市案)
・隣接する府市庭窪浄水場の一体運用や大阪市の余剰水を府南部地域へ送水し、府の大規模投資を抑制することで、大きなコストダウン効果を生み出すという考え方は、確実に実行可能な案として評価できる。全体として、緻密でしっかりと良く練られた案であると思う。専門家の意見等も参考にしながら検討をされており、各種シミュレーションや具体的な提案について信頼性・実現性の高さが窺える、首尾一貫したストーリー性をもった提案である。
・但し、大阪市が大阪府の用水事業を承継するという経営形態については、水道料金等の重要事項が大阪市議会で決定されることに対し、府下市町村からも懸念の声が出ていた通り、受水市町村の意見がどこまで反映されるかは不透明である。大阪市案を採用する場合は、この点に最大の配慮が必要と考える。

以上

府市水道事業統合検証委員会 報告書
検証委員 木村 靖夫

◎ 安全・良質な水を安定的に供給できるか。
(大阪市案)
オゾン殺菌等の高度浄水処理が導入されている中で、安定送水の面での懸案は震災対策である。中央防災会議作製の「東南海・南海地震二つの地震が発生した場合の想定震源域と想定震度分布図」によれば、府市の浄水施設のある地域は震度5 と予想される。したがって、浄水施設のダウンサイジングは、耐震化工事費用の縮減の面でも有益であるが、同時に地域分散が望ましい。その意味で柴島浄水場に集中させることはリスク管理上、好ましくない。(廃止により多額の除却費用が発生することを考えると、当面は規模も小さく場所も離
れている府の三島、市の豊野両浄水場を廃止して、その他の浄水場は当面休止に止めるという考えも許容すべきである。)
現状を見る限り、市の柴島浄水場とより上流にある府の村野浄水場との間に大きな水質の差はないが、高齢化社会の進展に伴う残留医薬品問題や府境で止まっている淀川保全水路など滋賀県、京都府等の上流域を含めた流域管理を考えると淀川大堰に近く、津波の影響
を最も受けやすい柴島浄水処理場に過度に依存することは避けるべきである。

(大阪府案)
府案の耐震化対策工事費用は市の計上額に比べて多額であり、適切なリスクコントロールの範囲内であるのか疑問を抱く。総じて府の浄水場は敷地に制限があるため、階層を重ねる形で建設するきらいがあり、敷地が広く平面を中心に構成される市の浄水場と比較して費用がかさむとしても過大と思われ、統合協議の中で精査が必要である。また、耐震工事を含めた施設更新時において、用地に余裕がない府の浄水場は将来的にはダウンサイジングが求められることになる。


"新しい建築"と "ナイアガラの滝"

◎ 安価な水を継続的に供給できるか。
(大阪市案)
市水道局は、長い歴史の中で技術的なノウハウを蓄積し、府下の末端給水を含めた運営を担える存在であると確信する。しかしながら、現時点で政令市の中でも安価な水道料金を設定し、これまで大きな断水もなく供給できたのは、古い歴史、浄水場等の広い敷地、人口に比し狭く平坦な市域、何よりも恵まれた淀川からの取水等に起因するものである。府の水道事業を引き取って、能勢町、岬町など府の外縁部の市町村への給水に責任を持つことは、明らかに不利な経営環境を内包することになり、これまでのような効率的な運営が可能であることを保証するものではない。
したがって、府水道事業吸収後は、市は府下の受水市町村に対して全面的な責任を負うことになり、将来において損失等が発生し、水道事業に赤字が生じた場合は、協議会の意見を徴するといえども、その料金改定において、料金格差の是正などを余儀なくされるおそれがある。また、会計を市内と市外に分けるとしているが、事業の継続により共有資産が増えること、ダウンサイジングを目的とした施設廃止を市の案どおりに進めると市外部分の費用を一時的に増加させることにもなり、市の責任の下で会計を分離することには無理がある。
市は、府水道を選択的に無償で譲り受けるとしているが、そうすると府は残された施設の除却、撤去を独自の費用で行わねばならず、撤退ダムの負担金や出資金の消却をどう処理するかに頭を悩ますことになり、府議会、府民の理解を得ることは難しいであろう。公営企業において、厳密な資産評価が必要とは考えないが、府が水道事業からの撤退を望むにしても、このあたりの整理を行わないと実現は難しい。

(大阪府案)
市が主張する浄水から末端給水までの一貫システムの優位性については、府の将来において莫大な設備投資が発生する計画を見ると、水利用者の顔が見える末端給水を行う事業者が浄水まで行うことが望ましいとの考えにうなずかざるを得ない。府は、運営組織として
一部事務組合を提案し、受水市町村の民意の反映を強く主張するが、そこへの府の関与の在り方が明確でない。統合後は、市が主張するように、府は広域的水道整備計画の策定に専念することが望ましく、統合協議も含め受水各市町村が主体性を持って参加すべきであ
る。
これを前提として、府市の水道事業を承継するのは、一部事務組合が妥当な選択である。
例えば、現在の市の価格を上限として十年間はこれを維持するものとし、その後においても原則尊重するのであれば、会計を一本化しても大阪市民の利益を害することはない。当然、統合メリットは一部事務組合のものになるが、それを超える損失が発生した場合は、大阪市を除く受水市町村利用者が当面負担することになる。これは一見、大阪市にメリットがないように思われるが、負の資産処理が一気に進み、これまで行われてきた余分な投資が避けられることになり、府下全域としての料金引き下げにつながる。
一部に水道事業の統合は規模の経済が働かないとの指摘があったが、後述の運営面を除き、大阪府下における水源の現状を見ると賛成できない。確かに、大阪府の浄水設備は淀川水系に集中しており、これを能勢町、岬町といった府の周縁部に送るのは非効率極まりない。
これをそれぞれのエリアごとに水源と浄水設備をもって運営できるのであれば、当を得た意見である。しかしながら、大和川、猪名川、紀ノ川、由良川水系から大量に取水することは容易でない。一部事務組合となり、府の関与を薄める中で、行政区域にとらわれずにより効率的な水源を確保するのが現実的な選択ではなかろうか。また、同様にこうした現状を考慮せず、大阪市が隣接市へ水の供給を拡大することは、府全体の水道事業を崩壊させることになり、行政が行うべきことではない。

◎ 公平・公正に運営できる組織か。
(大阪市案)
市は、府水道事業を市に統合させ、受水市町村の意見を協議会において反映させるとしている。水道料金を一本化し、市が全面的に経営責任を担うのであれば、大多数の市町村には異論のないところであろう。しかしながら、水道料金の格差を維持するため、市内と市外に分けた会計を採用し、市外市町村への耐震化投資等があいまいな中では、受水市町村の不安はぬぐえない。また、廃止施設等の除却、撤去費用、撤退ダムの負担金の負担をどうするのかも、府が処理する問題としていて明確でない。
こうした中で、協議会で十分意見を聞き運営するとしていても、容易に他の代替手段に移行できない問題だけに、将来にわたって公平・公正に運営されるという保証がない以上、賛成できない。
代替手段があり、市としても必要性を強く感じて行っている、市営地下鉄の隣接市への乗り入れとは、同一視できない。

(大阪府案)
一部事務組合の最大の問題点は、議員定数が30 人以下と定められているため、受水市町村の民意が反映できないということで、府自身も認めているところである。しかしながら、最大の受水者となる大阪市と最小の受水市町村との間には、受水水量に大きな格差が存在しており、これにも配慮するならば、仮に議員定数を100 人にしたところで足りるものではない。また、こうした公営企業の運営には市が主張しているように市民が直接参加すべきものでもないし、専門家でない市町村議員もしかりである。府の案には他に手段がないから一部事務組合を提案したと誤解を与える部分がある。受水水量に応じて各市町村に投票権を与え、各ブロック毎で推薦する、もしくは累積投票で選出するということであれば、民意の反映は十分になされるのであり、最大受水者として大阪市が意見をリードすることになる。責任も受水水量に応じて、料金や拠出の形で負担することになり、公平性は市の案よりはるかに高い。また、大阪市を含めた受水市町村の意見がすべてであり、過大な投資に対する牽制が働く。
過去の一部事務組合においては、関係自治体議員の副収入、退職職員の受け皿といった問題が指摘されたことがある。事務局、議会の効率化については十分監視が必要であるが、今日のように透明性が高まり、業務の受委託が一般化する中で、その心配は薄らいでいる。

総合的な評価
(大阪市案)
市の案は、データ的には非常によく検討されており、技術面ではおそらく実現可能性が高いと考える。しかしながら、(1)統合後は市が実質的に経営責任を負う、(2)府からの資産譲渡が円滑に進まない、(3)市の浄水施設に固執するあまり効率性、安全性において疑問が生じる等から、府民、市民の双方とも受け容れがたいものである。そもそも、ダウンサイジングの効果を受益できるとしても、政令市とはいえ大阪市が府下の市町村の水を心配しないといけない理由は存在しない。協議会については、自らガバナンスに問題があると認め、将来的に特殊法人化等を目指すことも有り得るとするのであれば、およそ変則的な市水道局への吸収という手法に拘泥するのは理解しがたいところである。仮に実現した場合は、吸収により実質的に経� �責任を負うことになる大阪市および市民は、現在の水道料金におけるメリットを失うリスクを抱えることになる。大阪市職員を一時的でも増加させることも望ましいことではない。
また、選択的に無償譲渡を受けるという手法は、企業でいえば清算を迫るものであり、穏当な主張とはいえない。
市の浄水施設をほぼ存続し、集中管理においてもその対象施設の更新状態を無視して、すべて市の施設側から行うという考えも理解しがたい。市の水道事業の歴史に対するノスタルジーは、大義の前に捨て去るべきである。
市は、当初より市の案を受け容れない場合は、統合を白紙に戻すこともあるとしているが、水道事業の統合が、水道料金の引き下げや地震や環境汚染といった将来リスクへの対応費用の削減に結びつくことを理解されているのであり、統合実現に向けて譲歩することが市民の利益に通ずる。
市の案は、以上の部分が是正されるなら実現は可能であり、効果も市の主張するものに近い結果が得られると考えられ、これこそ「大阪市水道・グランドデザイン」の目指すところであると確信する。

(大阪府案)
府の案は、検証委員会の席上での指摘で明らかなように一部データに不確かとの指摘があり、短い議論では完全に払拭されたとはいえない。また、大阪市内の管路等の利用について消極的であり、過去の連携協議の域を出ていない。しかしながら、統合組織への移行を
目指すのであれば、現時点では一部事務組合などに双方の事業を移すのが、幾つかの課題はあるものの現実的である。一方で、一部事務組合は、(1)民意の反映が十分でない、(2)経営の主体が不明確である、(3)規模の不経済が働くとの指摘がある。民意の反映については、議員定数の制限は、前述のように考えれば全く問題がなく、直接各市町村の水道事業会計に関わるため現行の議会よりもチェック機能が働く。また、運営の問題は、大阪市が受託することにすれば、市の案との大きな隔たりはなく、市も受託の範囲で責任を負えばよく、全面的な責任を負う必要はない。大阪市水道局職員の大半も一部事務組合の職員にならずに済む。
府は、大阪市と府下受水市町村と府の3 者協議会の場で検討を進めることを主張するが、円滑な統合を目指すのであれば、資産譲渡部分等の一部を除き、一歩下がったスタンスで受水市町村の自主性に委ねるべきであると考える。
検証委員会を通じて感じられたのは、府および市の水道事業担当者の間にある抜きがたい不信感である。そもそも、民間企業であれば、統合協議は少数の関係者で秘密裏に協議し、進められるべきもので、統合に大きな影響を受ける当事者が大量に参加すること自体が稀
有であり、残酷なことである。今後は合併の当事者ではなく知事、市長を補佐する部門が奮起し、当事者を抑えて合意案をまとめていただくことを期待したい。

府市水道事業統合検証委員会 報告書
検証委員 中本 行則

◎安全・良質な水を供給できるか。
大阪府、大阪市とも高度浄水処理が完了しており、過去から現在まで安全・良質な水を供給してきた実績がある。その点から考慮すると、どちらの提案が採用されても、今後も安全・良質な水を供給できるものと判断される。

◎安価な水を安定的にかつ継続的に供給できるか。
「安価」という観点と「安定的・継続的な供給」という観点は相反するものである。
「安価」に重点を置き設備更新を怠ったり、安易に人件費を削減する目的だけで人員を削減したり、民間委託を推し進めると「安定的・継続的な供給」に支障をきたすことも起こりうる。
反対に「安定的・継続的な供給」に重点を置き設備更新に多額の資金を投入し、多くの人員を雇用すると「安価」な供給が困難になることが考えられる。
大阪府案と大阪市案では、どちらも今後 施設・設備を縮小し、人員を削減することを提案しており、「安価」な供給を全面に押し出しての提案となっている。
ただ、大阪府と大阪市の提案には、今後の給水原価の算出にあたり、設備更新計画や将来の有収水量に対する考え方の違い、縮小する施設の選択に差異等があり、同条件に立っての将来予測とはなっていない。このように両者の前提条件に差異があるため、どちらの提案が「安価な水を安定的・継続的に供給できるか」という点について、すぐれているかを判断するのは困難ではあるが、どちらの提案も、将来は給水原価を削減できるという提案にはなっている。
およそ、どんな将来予測であってもそれは困難であり、将来の有収水量がどれほどになるかという予測も、また困難であると考えられる。
たとえば、企業価値を算出する方法として有力なもののひとつにDcf法(将来予想される現金収支を、割引率で割り引くことにより、企業価値を算出する方法)があるが、割引率や成長率をどう見積もるかによって算出される企業価値が異なり、専門家が算出したものでも一番低いものと一番高いものでは1.5倍程度の開きが出ることがままある。
このようなことを考慮すると、将来人口予測や府下市町村の自己水の増減、一人当たりの水の需要量の変化等を用いて算出される将来の有収水量の将来予測値について大阪府と大阪市のどちらが適正かというような議論はあまり意味がなく、将来の傾向として現在より「安価」な水を「安定的かつ継続的に供給」できるということが、おおむね確認することができれば、双方の提案はその目的を十分果たしているものと判断できる。
この点については、大阪府案・大阪市案共に将来は安く供給できる提案となっており、「安定的・継続的な供給」に支障がなければどちらの提案でもさほど差があるとは感じられない。
ただし、私には工学的な知識がないため、どちらの案が耐震化という点ですぐれているのか、どちらの送配水運用計画がすぐれているのか等が不明であるため、どちらの案がより「安定的・継続的な供給」に水が供給できるか、という点につき判断は困難である。

◎公平・公正に供給できるか。
公正・公正に供給できるかという点については、大阪府案と大阪市案ではその統合組織体に対する考え方が全く異なっており、その点につき言及したい。

大阪市案
大阪市案では、「大阪府用水供給事業を無償で事業承継する」という提案になっている。ただし、引継ぐべき資産については資産性のないものや引継ぐ必要のないもの(例えば、稼働見込のないダム利用権などは資産性がないと考えている)を精査したうえで引き継ぐということになっているため、不要な資産は大阪府に残しておくということになり、将来において、大阪府が不要な資産の除却損の計上と、その除却に伴う資金流失を負担することになり、この点については、いささか大阪市にとって都合のよい提案ではないかとも感じられる。
今後、府下の市町村の水道事業引継ぎの場合において、このようなことが起こると府下の市町村についても、同様の負担が生じることとなるのではないかと懸念される。
また、大阪市は引継ぎ処理についても、大阪府の資本金は引継がず、大阪府の資本金は霧散し、大阪市の資本金に自動的にすりかわるという処理を主張し、それがあたかも正しい処理であるかのように主張しているが、必ずしもそうとは限らない。
例えば、東京都の場合「引継資本金」という概念を用いて、吸収合併して引継いだ資本金を明確に区分して表示している。
この点については、元東京都水道局職員の公認会計士池田昭義先生が、その著書「Q&A地方公営企業の会計・監査の実務」において『東京都の場合、40 年前から都下27 市の水道事業の一元化(広域化)をはかって、順次吸収合併していますが、将来、都営水道が民営化され、株式を発行する場合、売却により入手した資金は、すべて東京都のものだという訳にはいきません。都下27 市が出資していた分については、それぞれの市に配分する必要が生ずると思われます。そのため、吸収合併にあたっては、各市の出資額を自己資本金の中の「引継資本金」として、毎事業年度作成する貸借対照表に明確に表示しています。(中略)資本金のうち自己資本金については現行では次の3つに区分されています。

(1) 固有資本金
(2) 繰入資本金
(3) 組入資本金

(中略)合併に伴う「(4)引継資本金」が現行法令では規定されていません。(中略)吸収合併の場合には前述、東京都のように、自己資本金の内訳で(4)引継資本金として計上することになります。』と記されている。
この考えは、会計の常識からは極めて妥当な考え方であり、大阪市のように「事業継続を前提として事業主体のみを変更する」といういわば資本金の持ち主が、勝手にすり替わるという考え方は、会計の常識からは、なじまないものである。
学校法人会計基準を採用する学校法人、社会福祉法人会計基準を採用する社会福祉法人、公益法人会計基準を採用する公益法人といった非営利法人とは異なり、最も民間の企業会計制度に近い会計制度を長年採用している公営企業の会計制度にあっては、現行法令に規定されていないからといって、引継資本金という概念を用いずに、そのまま資本金の持ち主をすり替えるというおよそ企業会計基準とかけ離れた処理を採用するということは、妥当な処理ではないと考える。
もっともこの点について議論はあろうが、もともと現行法は、今回のような統合を視野にいれて起草されたものではないため、そのことについて当然に対応していないが、たとえ現行法では規定がなくても、少なくとも大阪府の資本金が大阪市の資本金にすり替わるという処理よりは、東京都のように引き継いだ資本金は引継資本金として区分するのが、会計処理としては、妥当な処理であると私は判断する。
そうでなければ、池田先生も東京都の決算書について言及されているのと同じように、もし大阪市水道事業を民営化するといったことが、将来発生した場合、大阪市の主張するように、大阪府の資本金が大阪市の資本金にすり替わるという処理をすると、本来的には大阪府の資本金持分に対して発行される株式についても、すべて大阪市の持分となり、大阪府としても、大阪市民以外の大阪府民としても、容認できるものではないと思われる。
そうならないためにも、大阪市水道事業に大阪府用水供給事業を事業承継した場合において、大阪府の持分を貸借対照表・資本の部に明確に表す必要があると考える。
ただし、大阪市は、事業承継後の貸借対照表・資本の部に大阪府の出資分を計上することを認めていないため、東京都のような処理方法を採用するとなると、大阪府の出資分を買い取らざるを得ないということになる。
このことについて大阪市は、私の質問に対して『資産と負債の差額、企業会計でいう純資産についてであるが、これには府の一般会計からの出資金なども含まれるが、対価を支払うことは見込んでいない』と回答し、さらに『対価を支払うと最終的に用水供給事業のコストとなり、受水団体の料金に転嫁することになり、事業統合のメリットを損なうためである。』と回答しているが、対価の発生をさけたいのであれば、そのような方式を採用することなく、もっと別の方法を採用することを、当初より検討すればよいのではないか。
もっとも、対価の支払いについては、平成20 年12 月2 日付で公認会計士宮田要氏が大阪市水道局長宛に提出しておられる「水道事業の府市統合協議の市提案における会計手続き等の妥当性、実現性に関する評価について」において『資本のうち、府が出資した出資金(固有資本金、繰入資本金)については、資産の適正評価、潜在債務の有無なども考慮し、その取り扱いを両者で調整すべきものと考える。但し、その調整した出資金を用水供給事業会計から支出することは受水している団体への料金に影響する可能性があることを考慮する必要がある。』と言及されているように、対価が生じるというのが一般的な考えであり、対価が生じるという考え方には私も賛同する。
このように考えると、大阪市の主張する、「無償での事業承継でかつ貸借対照表・資本の部に大阪府の持ち分は入り込まない」という処理は、一般的な処理ではないと言わざるをえないと思われる。
無償であれば、大阪府の持ち分が事業承継後の大阪市水道局の貸借対照表・資本の部に入ることとなり、それを排除するには有償とならざるを得ないと言える。

大阪府案
大阪府案では、「一部事務組合方式による水道企業団を組織する」となっている。この方式では、大阪府、大阪市はもとより府下の市町村の貸借対照表をそのまま統合することが可能であり、その処理方法において大阪市案のように議論の余地がなく簡単な方式である。
また、その統合の時期についても府下の市町村の都合に応じて、早く統合しても良いし、そうでなくても良く、柔軟な対応が可能であると言える。
次に、水道料金に対しての民意の反映という点からみると、企業団方式では府、市町村議会の議員選出による企業団議会において、議決権が行使されることになるので、用水供給料金の決定において、大阪市議会で決定することとなる大阪市案よりは、大阪府下の市町村民の民意の反映は可能であると判断される。
ただ、現状においては企業団方式では、議員定数が30 人までとなっており、府下の市町村すべてより議員を選出するということができないという難点はある。この点については、府下をブロックに分けて、そのブロック単位で議員を選出するという等の方法を採用することで、ある程度の解決を図らざるを得ないであろう。
大阪市案においても、将来的には地方独立行政法人、特殊法人等といった水平統合による新たな経営形態への移行を唱えているのであるから、大阪市水道局が大阪府用水供給事業を事業承継するといった方法を採らず、最初から新たな経営形態を採ればよいのではないかと思われる。

◎総合的な評価
安全・良質な水を、安価にかつ安定的・継続的に供給出来るかという点については、設備更新計画や将来の有収水量の見込み及び縮小する施設の選択等に両者間に差異があり、前提条件が異なっているため比較が困難である。また、私には工学的な知識がないため、どちらの耐震化計画がすぐれているのか、送配水運用の安定性はどちらが良いか等を判断することが難しい。
ただし、どちらの提案においても安全・良質な水を安価に供給できるという提案になっているため、安定的・継続的に供給できるということが確認できれば、いささか乱暴ではあるが、どちらの案を採用してもそれほど差がないものと判断して良いと思われる。
次にその統合方法についてであるが、「大阪府用水供給事業を無償で事業承継する」という大阪市案は、無償譲渡であれば、大阪市水道事業会計に大阪府の引継資本金が残ることも考えられ、有償であれば大阪市の主張するように給水原価にはね返り、府下の受水団体
の料金に転嫁することが起こりうる可能性がある。
また、大阪市は大阪府の不要な資産は引継がないという主張をしているが、将来において大阪府下の水道事業統合の際においてもそのような処理をするならば、府下各市町村にも負担を与えることになる。
このように考えると、大阪市が提案する、「大阪府用水供給事業を無償で事業承継する」という統合方法は、なかなか実現困難ではないかと思料される。
逆に、大阪府が提案する「一部事務組合方式による水道企業団を組織する」方法によると、新たに企業団を立ち上げ、そこに各市町村が入っていくことになり、たやすく処理され、実現可能性は高いと考えられる。
以上、大阪府案・大阪市案について検討を加えてきたが、どちらもそれぞれの立場に立って考え出された良い提案であると思われるが、提案書自体の全体的な印象を言えば、どちらかというと大阪市案のほうが、提案の中身が良く分かるように作成されていると感じられる。
ただし、前述したとおり、大阪市案はその統合についての処理方法に、困難な点があるのではないかと思料されるため、大阪府案の方が、その点において、統合の実現が容易であると判断するものである。

以上

府市水道事業統合検証委員会 報告書
検証委員 水谷 文俊

1. はじめに
今回の府市水道検証委員会に提出された案のうち、府市の間で最も大きな隔たりがあったのは、組織形態である。それぞれの案の基本的な考え方を要約すると、府の案は「企業団という一つの独立した事業組織に府域の水道事業体を集約すること」である。一方、市の案は、「府は水道の政策・規制を行い、市は水道事業を行うという考え方に基づき、市が府の用水事業を引き継ぐもの」というものである。ここでは、特に(1)組織形態、(2)事業計画全体、(3)技術的側面、という3つを中心に評価を行う。

2. 主要個別項目に関しての評価
2.1 組織形態
[大阪府案]
府案は、府と市のみならず、最終的には大阪府下の市町村水道事業を一つの大きな企業団に集約することを狙ったものである。この利点は、間接部門や重複投資の削減である。
この方式は、スケールメリットを追求したものと考えられる。しかし一方で組織が大きくなりすぎると規模の不経済が働くことになる。例えば、私の研究結果によると、給水人口で約80 万人程度が最も平均費用が小さくなる。このことから、組織があまり大きくなりすぎるとむしろ弊害が大きくなると考えている。
この点に関して、検証委員会において確認をおこなったが、「各方面の指導を得ながら効率的な経営モデルをともに追求していきたい」という回答をいただいただけで具体的な根拠は提示されなかった。公益事業の改革では、大きな組織を分割し、競争が働くような状況にするようなものが現在の潮流である。このことを考えると、大阪府が提案している案は、この流れと逆行するものと考える。
またもう一つの懸念は単一組織内にいくつかの水道会計が併存することである。経営事情の異なる複数の水道事業体が一つになっても、しばらくは組織内に個々の事業体の会計が独立して存在する。このようなやり方はいたずらに混乱を招くだけであり、現実には調整などの事務が複雑になるなど、かなり無理が生じるのではないかと考える。
もし府の案が、府の小規模市町村の水道事業を統合し、広域化をはかるということであれば大いに評価するが、府全域までの統合を進めるということには多くの懸念が残る。大阪府と大阪市の統合よりも、むしろ大阪府下の市町村水道を、給水人口で約80 万人程度のブロックごとに集約することこそが優先すべき課題であると考える。

〔大阪市案〕
市案の基本的な考え方は、大阪府は水道事業の政策や規制を担当し、大阪市は実際の水道事業、つまり現業を行うというものである。政策・規制と事業を明確に分離するという考え方は、役割の分離という点で評価できる。
市案では、用水供給を受ける市町村水道事業者とともに、協議会を設け、そこで協議を行うという方式をとっている。現実には大阪府下の市町村水道事業者は、料金の水準、自己水源の多寡、施設の更新の程度、その他経営状況に関して千差万別であるので、各市町村の水道事業者が独立したままで、緩やかな連携という形態は現実的な案であると考える。
ただし、府案で述べたように、平均費用が最も低くなる規模は給水人口が約80万人であることを考えると、市案も最適なレベルよりも大きな規模となっている。この点に関してなんらかの対策が必要であろう。
市案に関して最も懸念される点は、大阪府下市町村の用水供給料金や用水供給の施設の投資計画など重要な項目が、大阪市のコントロール下の協議会や審議会で決定されてしまうのではないかという点である。市案の基本的考え方が、政策・規制と事業の分離であることを考えると、大阪市がイニシアティブをとるのではなく、大阪府主導の下で、協議会や審議会を設置し、そこで先に述べた重要項目の決定を行うことが望ましいと考える。この点に関しては、第4 回検証委員会においても大阪市も可能である旨の回答を得ている。
もう一つの懸念としては、市案の協議会方式では、技術者不足などの中小市町村が抱える課題に対応できないというものである。それに対して、大阪市は現在においても、業務委託や人材育成などの技術協力を行うことで、他の市町村への支援や連携を行っているとの回答を得た。今後も末端給水を行う事業体同士の水平的な連携が必要となる。


2.2 事業計画全体に関して
府及び市のいずれの案に関しても、府市の水道事業統合により、約2,000 億円を超える費用削減効果が見込まれるとのことである。この統合効果については、府及び市案のいずれに関しても、その前提条件や算定方法などを明確化した上で、きちんと評価すべきであると考える。ここでは4 回の検証委員会での議論で特に重要であると考える将来の水需要予測、コストシミュレーション、人員削減計画に関して評価したいと考える。

[大阪府案]
(1)水需要予測
当初府から提示された有収水量の予測値は、平成41 年度で5.5 億m3/年であった。この予測値は、私自身が推定した楽観的数値よりもさらに楽観的な数値となっており、それが経営上問題となることを指摘した。第3 回委員会では、新たに4.65 億m3/年に修正された案が提示されることになった。全ての計画の基本となる有収水量が簡単に変更されると、その前の計画はどのような根拠で策定されていたのか大いに疑問が残る。

(2)コストシミュレーション
府案で示された給水原価の削減額は、有収水量、投資額、人員削減額などの全ての数値が妥当である場合には実現可能なものとなるが、検証委員会の資料提出のたびに有収水量、投資金額、前提条件が変動しているなど、十分な検証ができない状況である。本来ならば、確定された数値をもとにその妥当性を検証するのが望ましいことだと考えるが、そのようなやり方がとられていない。そのようなことから、提出された数値の根拠に関して懸念が残っている。たとえば、統合による削減効果として、府案を表としてまとめたものを示す。
大阪府から提出された資料では、個別の浄水場や送水管ごとの事業費を提示されているが、それをとりまとめた数値ではそれぞれの効果が大きく異なっている。たとえば、水需要が現状維持の場合には、府市統合の効果が1,640 億円削減可能であるのに対して、水需要が減少した場合には、府市統合の効果は460 億円しかない。もし、このシミュレーションが正しいとすると、水需要は減少することになるから、府市統合が実現しない場合にも1,380 億円削減が可能である。

水需要が現状維持
(H.41=5.5 億m3/年)
水需要が減少
(H.41=4.65 億m3/年)
水需要減少による効果

府市統合が無し

1,380 億円の削減

1,380 億円の削減

府市統合が有り

1,640 億円の削減

1,840 億円の削減

200億円の削減

統合の効果

 1,640億円の削減

460億円の削減

 

(3)人員削減について
大阪府の案では、組織統合に伴い、間接部門をはじめとして浄水場部門等で、他の類似事業体との比較を通じて適正規模にまで人員削減を図るという考え方を示している。きちんとした目標やベンチマークを示していることは、大いに評価できる。
一方、注意すべき点としては、その削減方法である。府案では、水道部門以外の行政組織全体で、水道部門で削減する人員を受け入れ、その分他の部門での新規採用を減らすといった対応をとるということである。このことは、水道事業のみで見た場合には削減の効果は見えるが、行政全体としてはあまり変わらないという見かけ上の効果になる場合が多いことである。見かけ上の効果による過大評価とならないように注意する必要がある。

[大阪市案]
(1)水需要予測
市案は、私が独自に試算した厳し目の予測値(H41=4.9 億m3/年)よりも若干厳しい数値である4.6 億m3/年となっているので、特に問題はないのではないかと考える。

(2)コストシミュレーション
市案のコストシミュレーションは、その算定基礎となる項目ごとに積算を行っており、特に大きな問題を見つけることはなかった。一つの懸念であった施設の過少投資の点に関しては、補足説明を受けて納得した。

(3)人員削減について
市案では、基本的に退職者不補充を行うことで、適正規模に縮小することを考えている。しかし、その人員削減の効果をコストシミュレーションには入れていない。これは経営的には安全側に働くので、特に問題はないと考える。

2.3 技術的側面
(1)耐震化計画について
この項目に関しては、市案に対して懸念があった。大阪府の「長期施設整備基本計画」の5,400 億円と7 次拡張事業300 億円の計5,700 億円に対して、市の提案は2,460 億円を削減するというもので、これは過少投資になっているのではないかというものである。特に市案では耐震化やリスク管理が十分に行われないのではないかという点が危惧された。
この点に関しては、第4 回検証委員会において提出された資料から、外部専門家からの技術評価を得た上での提案であると判断し、特に問題はないものと考える。

(2)水理計算について
水供給の安定性に関して、府市双方からそれぞれの案に関しての問題点が指摘された。府案では簡易計算によって、市案ではネットワーク計算によって、水供給の妥当性がチェックされている。市案の計算結果の妥当性に関しては、耐震化と同様に、外部専門家の評価を受けている。このことから、現時点においては特に問題がないと判断している。一方、府案に関して市が提示したシミュレーション結果では、大阪市内の一部区域では水が給水されない危険性が指摘された。この件に関して、大阪府は、安定給水の妥当性について、再チェックする必要があるのではないかと考える。

3. 結論
今回の検証委員会では、とかく形式的な議論になるのではなく、かなり厳しい議論を行うことができた。また、大阪府・大阪市の双方とも、短い期間にもかかわらず、委員からの要求に対して真摯に対処していただいたことを評価したい。
今回の検証委員会において大阪府知事及び大阪市長より与えられたタスクは、府市双方から提出された案を客観的に評価することである。評価にあたっては、それぞれの提案された案が、きちんとしたデータや資料に基づき提出されたものかが重要であると考える。
さもないと間違った結論になりかねない。私自身としては、一つ一つ根拠を示しながら、府案・市案の妥当性について論じるべきとして臨んできた。
府案に関しては、部分的には良い点もあるが、大阪府下の水道事業者を全て集約するという企業団方式とその根拠となる数値について、大きな懸念が残っている。一方、市案は、協議会などは府のコントロール下に修正すべきであると考えるが、全体としてその根拠となる数値の裏付けがきちんとなされていることや、実現性の高い案であると評価する。

府市水道事業統合検証委員会 報告書
検証委員 八木 俊策

1 はじめに
検証委員会が4回開催され、数多くの質問と回答によって、府市双方の基本的な考え方や膨大な情報が公開された。この点は高く評価できるとともに、関係者の多大な労苦に敬意を表したい。しかしながら、再三の質問にもかかわらず、十分な説明や資料提供がなく、検証できなかった点や未検討の課題が残っていることも事実である。したがって、委員会の設立目的である「基本的な合意形成に向け、知事・市長の判断に資する」ことが、十分に達成できたとは言い切れない。今後、大阪府民・市民にとって最適な統合を実現するために、検証委員会での議論を踏まえ、府・市・受水市町村によるさらなる検討が望まれる。
以下、安定供給、費用削減、組織形態について、検証結果を述べる。

2 安全・良質な水を安定的に供給できるか(安定供給)
国においても主要な施策目標(水道ビジョン等)とされるなど、水道施設の耐震化は今後の最重要課題であり、受水市町村からも強い要望がある。とくに柴島、村野、豊野の各浄水場は活断層に隣接しており、送水管路も含め施設の耐震化は、計画的かつ着実に進める必要がある。統合後の浄水施設の配置規模(縮小計画)においては、現状の水利用実態にもとづく府域全体の合理的な計画が必要である。送配水運用においては、事故時におけるバックアップ機能に留意することが不可欠である。

1. 水道施設の耐震化
【大阪府案】
将来の水需要減少時は、需要に合わせて不要な浄水施設を縮小し、縮小後の施設については基礎構造も含めて更新することを基本とした耐震化を計画している。また昭和30 年代に布設した非耐震型の送水管更新に備えたバイパス管なども計画している。

【大阪市案】
50 年以上経過した老朽施設に対し、大部分は補強で対応している。府の村野浄水場についても更新ではなく耐震補強が提案されている。しかし、これらの具体的補強工法については説明されていない。管路の耐震化について、全国基準(日本水道協会)では市の耐震化率は約15%であるにも関わらず、市独自の緩和基準を用いて85%としている。その基準では、府の管路はほぼ全て耐震化されていることになり、耐震整備の対象から除外されることが危惧される。また、継手部分を鉛で固めた府の老朽管(昭和20 年代に布設)の使用を予定している。府の説明では、この老朽管は到底常時使用には耐えられない。これらを考慮すると、震災時に管路で大きな被害が発生するリスクは高い。

2. 浄水施設の配置規模
【大阪府案】
現状の稼働状況、給水区域、耐震化の状況、維持管理を考慮した計画となっている。規模についても適正規模にダウンサイジングされている。
柴島浄水場(下系)廃止後の水運用については、柴島浄水場上系下系配水池の一体運用と連絡管の活用により、十分に対応可能であるとしている。

【大阪市案】
将来の水需要減少時にも施設規模は縮小せず、逆に市の柴島浄水場の市内給水エリアを広げて稼働率を上げ(現在の約52%を90%へ)、余剰となる市庭窪、豊野浄水場の能力で府南部に送水することにより、府浄水施設の一部更新を不要とする計画である。
しかし、検証委員会において、計画中の市内送配水管の大規模な布設工事を前倒しで実施しなければ、府南部に送水できないことが判明した。再三の質問にもかかわらず、新たに必要となる配管整備の具体的な事業計画は明らかにされていないため、十分な検証が行えなかった(240 億円プラス共同溝負担金?)。検証に必要な市内施設整備の具体的な内容を開示するべきであった。

3. 送配水運用・系統連絡管
【大阪府案】
浄水場の3 系統化と送水の3 環状化、系統間の3 連絡管の設置により、統合効果を十分に活かした安定給水システムが示されており、効率的な運用や事故時の柔軟な対応が可能である。集中管理システムの導入と相俟って、信頼性は高いと考えられる。

【大阪市案】
巽配水場から藤井寺ポンプ場に至る連絡管は重要である。しかし、この連絡管による水の流れは、市から府への一方向となっている。これを府市双方へ融通可能な形で運用すれば、大阪市内の送配水のバックアップにもなる。そうすれば市の整備工事費は削減できるであろう。また、費用低減を優先するあまり、集中管理システムの導入時期が遅れ、安定給水に不安が残る。
第1回検証委員会で示された市案では、3ルートを経由して府南部へ送水する計画であった。しかし、委員会で水理計算に関する質問があり、その後、当初案を一部変更して、第4ルートが追加された。しかし、この第4ルートについても、老朽管や供給圧力等の問題点が指摘された。この点に対する市からの回答資料はなく、十分な検証はできなかった。

【安定供給のまとめ】
市案は市から府への送水を最優先した案であり、府案は連絡管による府市双方向の水の融通を重視した案である。府域全体の送水効率と事故時における安定供給という点で、府案の方が適切である。
配管の耐震基準に関して、大阪市は独自の緩和基準を用いている。配管ネットワークが発達し、配水区域が限られている大阪市内においては妥当といえるかもしれない。しかし、これを管路ネットワークが必ずしも十分でなく、高圧・大容量送水が中心の府域施設に適用することは妥当性に欠ける。
今後、施設規模縮小や施設更新整備、水運用方法、集中管理システムなどについて、実務者レベルで双方の施設の現状と計画情報を十分に交換して検討を加え、大阪市を含めた府民全体にとって、より良い案にすることが望まれる。

3 安価な水を継続的に供給できるか(費用削減)
府市両案とも、府の水需要日量216 万㎥を前提として平成16 年度に府が作成した「長期施設整備基本計画」(以下「長期計画」と呼ぶ)の削減を主な効果としている。市案が統合効果として挙げているのは、この費用削減のみである。
検証にあたっては、最近の水需要の減少(平成18 年度府水需要は日量174 万㎥)により長期計画が見直し中であることを考慮する必要がある。削減効果は両案ともほぼ同じように見えるが、水需要の減少と将来の施設計画及び統合効果の考え方には相違がある。
両案とも基本的に会計を分けているので、市内の水道料金が引き上げられることはない。
また、用水給水原価シミュレーションの結果には、減価償却費率、金利、有収水量などの前提条件によって多少の違いは生じる。しかし、両案ともほぼ一定の値に収斂されることは確認できた。

【大阪府案】
通常、組織の統合で最も効果が出るのは共通部門の費用削減である。その点、府案では長期計画の削減効果以外に施設管理部門や間接部門の統合による人員削減計画を打ち出している。
水需要の減少に対しては、長期計画自体が縮小されるため削減効果が減る一方、既存施設の縮小も可能となるので費用も削減される。このようなケースの給水原価の試算も提出され、水需要が減少しても、ほぼ同様の給水原価になることが確認できた。また、統合による共通部門の費用削減によって、市内給水原価が低下する点にも言及している。
縮小施設の用地に関して、撤去費等を考慮すると、売却するのは会計上不利になるとの意見もあった。したがって、施設は残したままとし、上部空間の開放等により、広く市民のために有効利用するといったことも検討するべきである。

【大阪市案】
人件費の削減は市政改革の一環として市単独で実施する計画を示しており、統合による効果としての人員削減を見込んでいない。通常、組織の統合効果が出やすい要素を考慮しないのは疑問である。
水需要の減少により、削減効果のベースとなる府の長期計画が見直されたとしても、削減効果額は変わらないという主張は理解できない。これまで大阪市は日量243 万㎥の全施設(ピークは昭和45 年度の245 万㎥、平成18 年度は150 万㎥)を改良維持して来た。
将来、水需要がさらに減少したとしても、これまでどおり施設能力を縮小しないというやり方は、維持管理費用や改良更新費の増大を招く結果になりやすい。将来にわたる安価な水道水の供給は可能なのであろうか。
府案とは異なり、府域用水供給「料金」の引き下げを明言している。しかし、市内給水に関しては、給水「原価」が下がるという試算結果を示したものの、市民にとって重要な供給「料金」については言及していない。
市案実現のためには、当初発表されていた巽配水場−藤井寺ポンプ場の連絡管工事の他に、市内の整備工事の一部前倒しによる工事費(総負担額240 億円)並びに共同溝工事の市の負担などが必要であることが判明した。これは全体の統合効果の減少要因となる。

【費用削減のまとめ】
料金の値下げは市町村の切実な要望である。用水の給水原価の将来値の試算結果は、減価償却費率、金利、有収水量などの前提条件によって多少の違いがあるけれども、府市両案とも現在の1㎥あたり82 円が、60 円から65 円程度に低減できることが確認できた。
したがって、ぜひとも統合を実現するべきである。
なお、統合せずに、競争のインセンティブを働かせる仕組みをつくる方が安価になるという意見もあった。しかし、その場合にメリットを享受できるのは一部の地域のみである。
したがって、府民全体のメリットが生まれるよう、統合により経営意思を一元化したうえで、府域全体の民主的なコントロールのもとで水道事業運営を行うことが必要である。

4 公正・公平に運営でき、他市町村の要望に対応できる組織か(組織形態)
府市水道統合は府民880 万人のライフラインに関わるきわめて重要な問題であり、将来の水道のあるべき姿に立った広域的な視点が不可欠となる。統合組織においては、民主的な意思決定が法的に担保されなければならない。とくに受水市町村の意向が十分に反映されることがきわめて重要である。また受水市町村が要望しているように、他市町村との広域化対応の具体化も必要である。

【大阪府案】
府市双方の組織を解消し、企業団を設立するというのは、府民にとって受け入れやすい提案である。全国的にも多くの実績があり、民意の反映方法も特別地方公共団体として法制度的に整備されている。企業団方式においても協議会や審議会の設置が可能であるため、ぜひこれらの議会の補完的機関を設置し、より充実した民意の反映を可能にするべきである。
今回のように大規模な企業団は例がなく、この統合が実現すれば先駆的なモデルケースとなる。今後、統合組織形態や事業運営手法の具体的検討を進めるべきである。広域化は差し迫った課題であり、これは、国をはじめ水道事業者などにおいても広く認識されている。その意味でも他市町村の水道が容易に参加できる企業団方式が適切といえよう。

【大阪市案】
府の用水供給事業を市が承継するという統合案に対しては、受水市町村のアンケートにみられるように、不安や不満の声が多い。これは、現在府議会によって実際に果たされている民主的ガバナンス機能が消滅し、代わりに大阪市民の代表のみで構成される大阪市議会で、事業の予算や料金などの重要事項に関する意思決定が行われるという点による。事業対象区域全域から選挙で選ばれた住民代表が、議決権の行使によって民意を反映する仕組みを欠く点で、組織形態に関する大阪市案は不適切である。
なお、将来的には地方独立行政法人などの組織形態に移行するという提案となっているが、なぜ統合時にその形態にしないのか、納得できる説明はなかった。また、企業団を否定する理由についても明確な説明はなかった。

【組織形態のまとめ】
市水道局による府営水道の承継という統合形態は、行政的にも市議会による決定という点においても適切とは言い難い。受水市町村の意向が法的に反映できる企業団が適切である。企業団の場合でも、議会には大阪市議が多数参加すると考えられるので、大阪市民のメリットを確保することは十分に可能である。取水から末端給水に至る長年の経験や技術を有する大阪市水道局が企業団に参画することになれば、府域水道事業の効率化や広域化がより一層促進されるものと期待できる。

5 総合的な評価
今回の検証委員会において、府市双方の水道統合に関する基本的な考え方や膨大な情報が公開されたことは高く評価できる。ただし、大阪市内の施設整備内容など、情報提供が限られたために、検証が不十分であった部分もある。
両案いずれの場合でも、施設規模の縮小などによる用水供給原価の低減は可能となり、一定の統合効果が期待できるので、ぜひとも統合を実現するべきである。安定供給に関しては、耐震化・施設配置・水運用などの点から、府案が妥当と考える。統合組織については、受水市町村の参加を含めた民主的な意思決定が法的に担保されるという点で、企業団が適切である。
今後、府案をベースとして、統合に向けたより詳細かつ具体的な検討が不可欠である。
そのためには、府・市・受水市町村による検討委員会を立ち上げ、大阪市を含めた大阪府民全体にとって、より良い計画を策定していくことが必要であると考える。

府市水道事業統合検証委員会 報告書
検証委員 矢野 秀利

1 まえがきと要旨
4回の検証委員会において府市の水道事業の現状と統合をめぐる問題点がほぼ明確になったものと思います。このような意見交換、質疑ができたことは大きな成果であり、府市双方の関係者の方々に感謝いたします。
まず、検証委員会で受けた印象としては府と市のスタンスが大きく異なることでした。
府が仮想的な状態を想定しながらシミュレーションを試みていたのに対して、市は実体を積み上げて将来像のシミュレーションを行なっていたことからわかるように、双方の視点が異なることが多々あり、2つの案を同じ尺度で評価することが難しいと感じました。それゆえここでは並列的に両案を検証するというよりも、それぞれの案の評価を行いそのうえで総合的評価を与えることにしたいと思います。
そこで検証結果に入る前に私の基本的なスタンスを申し上げます。安全・安心かつ安定的に住民に水を供給できることが大前提であり、そのうえで住民の思いを適切に反映できるサービス供給体制を構築することが水道事業の目的であると考えます。
そもそも公益事業は市場メカニズムが働きにくく価格(料金)が高めに推移する傾向にあるため、いくら議会が住民の意見を反映する組織であるとしても、それだけではコストを最小化し料金を抑制(引き下げ)するインセンティヴがなかなか働きません。それゆえ、住民にとって最良の水道事業を構築できるのか、ということが今回の検証によって確かめられなければなりません。住民にとっての最良とは上記の安全・安心、安定的な水をできるだけ安価に使うということであり、府であろうと市であろうと用水・給水主体はどちらでもよいことであり、なおかつ用水をうける市町村にとっても安心・安全、安価な水を安定的に供給されることを望むということが本意であると理解します。これらの観点を基本にして府市双方の案に対� �て意見を述べます。
そこで最初に本報告の検証結果と結論を要旨として簡潔に述べ、そののちにそのような結果についての理由を説明し、まとめ及び今後の課題についても付け加えたいと思います。

2 検証結果と結論
(1) 用水供給事業は基本的には大阪市および42市町村が参画する形で運営するほうが望ましい。このことによって府の今後の過剰とも思える設備投資を抑制できます。
(2) 統合の効果は府の試算ほどには大きくならないものと判断します。
(3) 長期的な試算(シミュレーション)においては市の数字のほうに信頼がおける。府の試算数字には不確定要因が多く信頼性に欠けます。
(4) 府の試算には今後の水需要を過大に見込み、労働コストの削減効果を過大に見込んでいるため、コスト削減が試算どおり進むとは考えられません。
(5) 住民と密接な事業は府よりも市町村が運営するほうが住民の意思を反映しやすい。それゆえ、市町村が中心となって水道事業を運営できるシステムの構築が必要です。将来の道州制を見越しての判断ならば、府の事業は州と市町村に分離されることになるでしょう。その点から見れば水道事業のような住民密接型の事業は市町村(連合体でも可)に任せていくことになるでしょう。
(6) 仮に企業団を創設するにしても、独占的性格の企業団が効率的に運営される保障はありません。短期的にうまくいっても中長期的には非効率が放置される可能性が大きいでしょう。企業団自体に価格値下げのインセンティヴは働かないということです。
(7) 市が運営する場合には協議会システムをうまく設計し、すべての市町村が対等の立場で参画できる体制を工夫すべきです。住民の意思を反映するシステムは必ずしも府議会あるいは企業団議会だけではなく、むしろ、必要なことは用水供給事業では売り手と、買い手である市町村の担当者の間の交渉の場を構築することです。
(8) 市が府から事業継承する場合には、公から公への移転であるから民間事業のような譲渡補償金(買取金)を払う必要はないでしょう。ただし、出資金等の返還をどうするかは極めて政治的な判断ですから、検証できる問題ではありません。また、府の資産については所有権を府が維持する形で利用権を市に与えるという方法も考えられます。
(9) 耐震性を根拠にして府市いずれが妥当かを議論されているが、耐震性の問題は統合問題と直接に結びつくものではなく、いかなる事業主体であっても十分な震災対策は必要ですので今回の検証の判断材料にはなりません。

以下においては前述の結論についての説明をいたします。

1 府市両案の論点別評価
(1) 組織形態・民意の反映について
組織形態のあり方は行政サービスの効率性、効果、公平性を担保するうえできわめて重要です。とりわけ新しい組織を構築することは一見うまくいくように予想されますが、いったん法的裏付けを持った独立的な組織を作ってしまうとこれを改廃することは非常に難しくなります。非効率であっても組織それ自体が存続を欲するようになるからです。既存の行政組織から独立的な新しい組織の設置には慎重であるべきだということです。
新しい組織を立ち上げることはそこから改革が始まる、あるいは何か偉大なことをやっているという印象を与えるかもしれませんが、公共部門が改革と称して効率を目指して大きな組織を設ける度に、数年経過すると大きいだけが取り柄で、非効率な組織だけになってしまうという過去の経験を十分に踏まえるべきであるということです。

大阪府案の企業団組織について
府案では統合後の組織形態として、府域住民の意思の反映が法制度的に担保された仕組みが不可欠であるとして、企業団方式による組織統合を提案しています。これについて意見を申し上げます。府の提案は府内42市町村の上部に用水企業団を設けるものであり、見方によっては42市町村の上部団体を新たに設けることになります。このような上部団体が42市町村との間で対等の関係で、たとえば価格交渉ができるのであろうかという疑問が出てきます。42の水購入団体を相手にしてひとつの独占企業体が生まれることになるということです。さらには予定している独占企業体は42市町村の上位(この意識は府には強いでしょう)にある大阪府が運営するものである限り42市町村が自由に意見を言え、かつ対等の立場で交渉� �るのは困難です。


機能しなかった府水協の価格交渉
これまで市町村で構成される府水協があり、ここが府との話し合いの機関として役割を果たしてきたことは周知のことです。しかしながら、今回の検証委員会で明らかになったように、これまで水の卸売主体である大阪府に対して需要側の42市町村が明確な価格交渉をしたことがありませんでした。たしかに卸売価格の値下げを要望する文書を提出することはあったでしょうが、お互いに向き合って価格交渉はした実績はないということでした。府側の価格決定に従うということであり、ここには市場に類するような双方が同じテーブルで議論し合って納得するという形の価格交渉の場はありませんでした。つまり、42市町村側が府に対して自分たちの主張を出し合って卸売価格を値下げするメカニズム、価格決定のメカニズムは存� �しなかったということです。このような最低限やっておくべき価格交渉の場も設定しなかった府と市町村の関係の延長線上で、府が構成団体となる独占的な用水企業団を創設すれば民意とはかけ離れた意思決定がより強固になるとしか思えません。独占体が自ら価格引き下げをする余地は小さいということです。むしろ、規模の大きい独占企業となるため、価格値下げに向かう力が働かない組織となる懸念があります。

大阪市案の協議会方式
大阪市案では、府から事業継承を受けた場合には、すべての市町村が入った協議会を設けてそこで用水供給事業にかかる重要事項(価格決定も含めて)について実質的に協議を行うことになっています。協議会は議会ではないために民意の反映等で懸念される方も多いことと思います。しかし、価格交渉のような詰めの必要なテーマでは府内のすべての市町村の代表者が対等の立場で議論することが重要であると考えます。
この協議会は、大阪市と府内市町村とにおける用水供給料金の価格交渉の場として機能することにもつながり、企業団方式に比べ、むしろ価格引下げのインセンティヴが働く可能性があるものと考えます。協議会で十分に経営状況、コスト、水需要などを検討し詰めの話し合いをやっていけば住民に十分納得できる案をつくることは可能です。要は大阪市も含めたすべての市町村が対等の立場で協議できるかどうかにかかっています。

(2) コストシミュレーション・投資削減額について
検証委員会の多くの時間と労力が府市のコストシミュレーションの比較検討に充てられましたので、この部分については詳しく説明をします。府市双方から提出された将来推計において両者のスタンスがかなり異なることです。周知のように市からは早い段階でシミュレーション案が提出され、私たち検討委員はこれをベースに将来見通しを検討しました。
市の案は平成42年までの推計を現状の数字をベースにして妥当と思われる前提をおいて推計したものです。当然のことながら水需要の長期的低下を前提にしています。
他方、遅れて提出された府の推計は現在と平成42年の最終数字しか記載されておらず、明らかに市の出した平成42年の数字に合わせたとしか思われない最終数字(給水原価)であり、さらに途中のプロセス(現在から平成41年まで)の数字が抜け落ちたものでした。ここに府側は市の数字に単に合わせるという(つまり市に対抗するという意図が感じられます)府の姿勢が始まったという印象でした。その後、府は検証委員会で質問・疑問を受けて途中のプロセスの数字を出してきましたが、これも二転三転して私ども検証委員の多くは戸惑いを隠せませんでした。つまり府の案はどれを検証の対象にするのか、そして数字の根拠はどこにあるのかが最後まで不明でした。以下では個別の数字について検討を加えます。

(大阪� ��案)
コストシミュレーション・投資削減額については、資料提出のたびに金額・条件が変動することや、統合をしなくても削減ができると思われるものがほとんどであり、前提条件の立て方に問題があり、コストシミュレーション・投資削減額において妥当性が疑わしいものでした。
なお、特に問題があると思われるのは次の点です。
・有収水量の設定方法に根拠がなく客観性がない。水需要の減少傾向を取り込んでいません。
・統合する場合としない場合で、減価償却費、支払利息の前提条件が異なるため、統合する効果を正しく表していません。
・投資の削減効果と減価償却費や修繕費の整合性が取れておらず、正しいコストシミュレーションができていません。
・市案では盛込まれていない人員削減費用をコストシミュレーションに反映しているが、その根拠となる人件費の単価が過大に設定されています。
・以上のことから最終年度には単年度で100 億円以上の黒字を生み出すことになっていますが、この数字自体が過大である可能性があります。
・検証委員会において、将来の投資削減効果額が何度も変更されており、信頼性に欠けます。(▲1,640 億円(第1 回)→▲1,340 億円(第2 回)→▲1,540 億円(第3 回)のような3回にわたって出された数字が一つの例)
シミュレーションが二転三転し、かつ根拠を明確に説明できない状況を目の当たりにすると、はたして自前で適切に計算されているのか疑問を持ちました。

(大阪市案)
大阪市案は、投資削減を行った効果をもって料金の値下げをするというものです。市側からは投資計画およびそれにともなう減価償却計画の詳細なデータが提出され、それをもとにしたシミュレーションです。価格値下げが可能であるかを示したコストシミュレーションを検証したところ、想定したとおりの推移となったことから、実効性があると判断します。
・水量については、現在の減少傾向を反映して設定をしているために説得力があります。ただし、将来については市の推定水量以上に水需要が減る可能性もあるかもしれません。
・減価償却費については、個々の事業ごとに詳細に積上げて計算がされており、詳細なデータを提出していて投資の削減効果が明確に減価償却費に反映されています。
以上から、大阪市ではコストシミュレーションを十分かつ詳細に作成できるだけの専門家集団が自前で配置されていると思われます。このようなスタッフを抱えていること自体が事業継承に自信を持っていることの証左であると判断いたします。

なお、府市両案はあくまでのシミュレーション上のことであり、実際に値下げが実行されるかどうかを保証するものではありません。シミュレーションどおりコストカットが実施されて、それが価格値下げに結びつくメカニズムが存在するということではありません。
このメカニズムデザインを構築することが今後の最大の課題です。

2 府市両案の総合的評価
府市両案の提案している将来の事業形態は、それぞれがやろうと思えばどちらも立ち上げることはできると思います。それが行政の論理でしょう。首長や議会が値下げをするという決定をすれば値下げは可能でしょう。しかし、要はどちらのやり方がより住民にメリットがあるかです。そしてトータルで見たときに公共部門の負担が小さくなるかです。
水道事業全体を見れば、そして今回の府市のやりとりを見れば感じられるように、事業者としては大阪市に「一日の長がある」ということでしょう。必要な技術者・専門家集団が確保され、あらゆる状況に対応できるシステムが構築されているということです。大阪府は水道事業から撤退することでメリットを見出すべきであり、撤退することで身軽になることもできるということです。府の将来試算にあるような楽観的なシミュレーションをもとにして水道事業からの黒字を見込むのはあまりにリスクが大きいということです。面子にこだわる経緯は理解できます。しかし、府は監督者として水道事業に関与する道が一番適切であると判断します。
さらに言えば、府のトップが道州制を近い将来に実現可能なものと考えられるのであれば、府の役割は個別の事業に人や金を投入するのではなく、州全体のグランドデザインに向けて府の事業の整理を検討する必要があります。個別事業はある程度の規模をもつ市、あるいは市町村の連合体に継承していくことになるでしょう。この点は今回の検証委員会の検討課題を超えるものであったかもしれませんので突っ込んだ議論はなされませんでした。しかし、検証委員会でのシミュレーションは平成42年までに及ぶ(実に22年後)ものであることを考慮するならば、大枠であるグランドデザインをも取り込んだ形のなかで水道事業の検討を続けていく必要があると考えます。

事業承継の対価について
検証委員会において、市が提案する事業承継について民間企業における営業譲渡、吸収合併等の事例を用いて、市が資産、負債を無償で引き受けるとの考え方について疑義が示されています。この点について異なる意見を申し上げます。
今回の府市統合協議は、地方自治体という公的セクター間での取引であり、民間企業への事業譲渡とは基本的に異なるということです。つまり、自治体間の事業承継、移管にあたって、資本家(株主)なるものは存在しないので、その引継ぎに際し、資産の買取は必要条件となりません。引き続き公共部門である市が用水事業を継続するわけですから府の資産を用いて府の行っていた事業を肩代わりするにすぎません。これは引き継ぐ事業が黒字であろうと赤字であろうと関係ありません。要は事業継承の結果、住民によりよいサービスが供給できるかがポイントです。たとえば市立高校が府立高校に移管される、逆に府立高校が市立高校になる場合を想定すれば明白でしょう。
ただ、水道事業が教育と異なってある程度の収益性を持つ事業であるから問題が見にくくなるのでしょう。水道事業は事業性があり、なおかつ事業に出資金や繰り出し金があるためです。市による事業承継の場合、これまで投入してきた府の出資金などの取扱いについては、あくまでも当事者間の個別交渉事項であり、政治的な課題になるということです。
ひとつの考え方としては、市へ事業継承したときに府の資産については所有権を府に置いたままにして、使用権を市に与えることは可能でしょう。そして府の資産が不要となるときには府に返還することが条件になります。
このような判断は公式があるものでなく、双方の交渉において決定されるべきものであり、検証委員が結論をだせるものではないと考えます。

3 まとめ及び今後の課題
以上の検証結果の説明を終えるにあたって少しばかり私見、あるいは印象的のものを述べます。
まず、耐震化問題は委員会の本筋とは異なる文脈で考えられるべきものと判断しますので一言申し上げます。耐震化の遅れをもって水道事業の統合化の懸念材料であるという意見も検証委員会で発せられました。しかし、統合しようがしまいが妥当な水準の耐震化は進めるべきものです。どのような震災に対しても100%耐えられる施設の構築は困難でしょうから、予想されるべき震災の程度に応じて耐震化を進め、結果として不具合な事態が発生したならば、事後的に迅速に対策を打つことのできる体制を準備していくことが肝要であると考えます。それゆえ耐震化の問題は統合問題と切り離して議論を進めるべきであると判断します。
次に、価格抑制・値下げのメカニズムの創設について私見を申し上げます。公共料金のような行政サービス価格の設定においては、需要者と供給者の駆け引き・交渉で価格が変化することはほとんどありません。むしろ供給側の論理で価格設定されると考えてよいでしょう。今回の府市の用水供給事業の中に競争的メカニズムを持ち込むとすれば、またとないチャンスとなり住民の利益になると思われます。すなわち、現行では府内42市町村は大阪府からしか水を買うことはできず、大阪市も基本的には大阪市にしか水を供給できない。用水供給が可能な主体は2つあるにもかかわらず、2つの間では競争関係はありません。これは法律を盾にとった府の縛りによって、大阪市を除く市町村は府からしか用水を受けることができないか� �でしょう。
そこで、府内の市町村は府からでも市からでも受水できるように規制を緩和することを求めたいと思います。そうすれば数年もすれば用水価格は需要に合わせて値下がりすることになります。このような市場化テストともいえる実験(これは安全な実験です)を行うチャンスを見逃す道理はないでしょう。府内の市町村も購入相手として選択肢が広がることになり、このことは当該市町村の住民へのメリットになります。価格は競争的になり、コストに見合った適正な水準まで低下し、結果として無駄な過大投資は避けられることにもなります。このように2つの供給主体間の競争を数年続ければ、用水価格の平準化が実現され、その結果として2つの事業体間の協力関係も生まれていくかもしれません。
何ら競争的な価格設定への努力もせずに、大きな上位組織をつくれば組織合併で人員が減り、行政的・政治的意思決定によって価格も下がり、過大な投資もなくなるという幻想は持たないほうがよいだろうということです。
この報告書では大阪府のコストシミュレーションを中心に厳しい評価を与えたかもしれません。しかし、大阪府案の試算にかなりの矛盾点が見られた要因は、大阪府案が「企業団方式による統合化」という至上命令に近いような前提を持ってきて試算を進めたこと、さらに先行発表された市案への対抗的とも思われる数字の設定(数度にわたる変更においてみられたように)がなされたことにあるように思われます。もう少し率直な現状と将来への理解や話し合いがあれば異なる方向も見出せたかもしれません。
これからの大阪府全体の水道事業のあり方については、まず府内の市町村間のネットワークを構築し、その枠組みの中で市町村間の協力関係を進めることが必要でしょう。そのうえで、府は市町村の水道事業全般について後見的な役割を果たしていくことが望ましいと考えます。これが地方分権の基本的な姿でもあるということです。垂直的な関係よりも、むしろ水平的な連携を推進していくことが府内水道事業の料金の平準化、そして府民の納得する一元化の実現になる可能性が大きいということです。

以上



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