2012年6月1日金曜日

映画『MY HOUSE』特別企画暮らしの多様性を発見する 家って、暮らしって、何だろう?


〈家〉の中を冒険しようよ ―― やりたくないことをやらないでいたら、冒険家になっちゃいました

1年ほど前に東京から熊本に引っ越し、築100年の町屋を改修しながら暮らしている『暮らしかた冒険家』と名乗る二人。ウェブディベロッパーの池田秀紀( @ikedahidenori )さんと写真家の伊藤菜衣子( @SaikoCamera )さん夫妻に話を伺った。

〈家〉だから落ち着くのか、落ち着く場所が〈家〉なのか

ふたりは今、熊本にある築100年の町屋に住んでいる。移住してきた時には、その家はとても人の住めるような状態ではなかったが、大家さんが自由に改装していいと言うので、思い切って手を入れなおし、自分たちの住みやすいように日々リビルドしている。(*1)

ふたりに〈家〉とは何かを伺った。

「新婚旅行で西日本を1ヶ月ほど渡り歩いた結果、『椅子と机、ネットと電源、それと台所』さえあれば生きていけると気づいたんです。」と菜衣子さんは言う。ふたりが生きていくのに、実はそれで十分だったと言うのだ。

家と思えば、どこでも家になる。だからふたりにとって、場所はどこでもよかった。落ち着く場所が〈家〉なのであって、〈家〉だから落ち着くのではない。

マイホームが幸せの象徴という時代があった。土地を買って自分の家を建てる。素敵な(でも本当にそれ必要?という)モノを買い集めて棲家を充実させていく。「どこよりも居心地の良い快適な巣作りをする」というのがマイホーム志向のゴールだとしたら、3.11はそれをぶち壊してしまったのではないか。

東日本大震災で目の当たりにした『放射能』や『地震』という 様々なリスク。
どこよりも快適で安心の象徴でもあった〈家〉だったのに、「何かあった時に身動きができないということが辛いんだということを、これほどまでに痛切に感じたことはなかった。」と秀紀さん。安心できる棲家などもはや無くなったのだと思った。


どのように住宅ローンを一定に計算すればよい

だからどんな状況になっても、幸せと感じられるかどうかが、大切なことのように感じられる。
僕たちは、〈マイホーム〉という幻想に縛られてきたように、しあわせのかたちも決め付けないほうがよいのではないか。

消去法なんです、僕たちの人生は

やりたいことをやるというよりは、やりたくないことをやらないようにする。
それもふたりで決めている大切なこと。

「例えば、建築家に頼んで納得の行く家を買うためには、すごくお金が必要になる。そのためにローンを組んで、その返済のために仕事に没頭して、やりたくないことも含めてやり続けないといけない。自分たちは、そのような人生は送りたくないって思ってるんです。」と秀紀さん。たしかに都会だと家賃や食費のために働いているような錯覚に陥ることがある。

秀紀さんは続ける。「たしかに、廃屋を改装するのはそれなりにお金も時間もかかります。それでも、建築家に納得いく家を建てるのに比べると何十分の1で済む。家に限らず、そういう例は探せばいくらでもある。もちろんタダでできる方法だってある。日本はすでに人口減少社会なんです。家や土地、使われないものはこれから腐るほど出てきますよ。ライフハックって言葉が陳腐化しててすごく嫌だけど、これが本当のライフハックです」。なるほど、0円生活=ライフハックは満ち溢れている。

そうやって、やりたくないことを消去していくことで今の暮らしかたになっていった。DIYが好きなわけでもないし、ボロ屋が好きなわけではない。住みたくない家に、住み続けることができないだけなのだ。

ふたりの結婚式(*1)も同様だ。「どこを探してもやりたい結婚式はなかったから、自分たちで作ったんです。ようするに、消去法なんです、私たちの人生は(笑)。納得のいかないことに、自分たちのお金や時間を費やされることが、一番納得のいかないことなんです。」と菜衣子さん。


時ミューチュアル·ファンドの年末にはない

「生きる」とは「死なないこと」

「うち、食費高いんですよ。だからまわりからたくさん稼いでると勘違いされているけど、違うんです。お金のかけどころがちょっと違うと思うんです。」と菜衣子さん。

外で飲んで来ることもほとんどしないで、飲むなら家でって人を呼んでくる。家賃だって東京の3分の1で、車も無い。服だって足りているからほとんど買わない。でも必要だと思ったら、長持ちするかどうかもちゃんと考えて、きっちりとお金をかける。

菜衣子さんは言う。「食費にかけるお金がないから…って『ちゃんとたべもの(*3)』を諦めている人に聞くと、お金を使う優先順位が私たちとは違うことが多い。お金がないと生きていけないってみんな言うけど、いくらあれば生きていけるのかをちゃんと計算している人ってどれくらいいるのかな。」たしかに優先順位をきちんと考えたことってなかったかもしれない。

そもそも生きるってなんだろうかってことすら深く考えていないんじゃないだろうか。ふたりにとって「生きる」とは「死なないこと」だと言う。言葉遊びのようではあるけれど、死なない方法を考えることが、生きることを考えることにつながる。

「とにかく、東京からここに来るための2万円さえ残しておけば、生きていく心配はしなくて大丈夫。ここに来れば食べるものと住む場所はなんとかなるから。」島根県海士町(あまちょう *4)で暮らしている友人に言われた一言に大きく影響を受けているふたり。

たしかに、都会で生きていくためにはお金が必要かもしれない。でも、お金がないうえに、お金に変えるスキルもなかったら、とりあえず「死なない」場所に行けばいい。

例えば、田舎で農業をやっている場所では野菜はいっぱい余っている。そこにいって、お金はいらないので住み込みで働かせてほしいって言えば食べるものと住む場所は確保できるんじゃないか。

そして、そこから自分の時間をつくって、次の一歩を考えればいいんだと思う。ネットでその野菜を売る方法を考えたり、プログラミングの勉強をして手に職をつける。とにかくそこから頑張って、仕事を作ればいい。


トップ10の投資ツール

ふたりの生活は実際はゆるりとしているわけではないけど、なぜだか落ち着いた生活をしているように見えるのは、「生きていく方法=死なない方法」をちゃんと考えているからかもしれない。

「こんなでも生きていけるんです」って具体例を見たい

映画「MY HOUSE」もそうだけど、フィクションではなくて現実に0円ハウスをやっている人の話が元になっているように、理想や理論じゃなくて、実際にそうやって暮らしていけるかどうか、ということが大事な気がする。

ふたりは言う。「『こんなでも生きていけるんです』って具体例を見たいんです、自分たちが(笑)。『ほら、意外とできちゃうんだよ、なんでも』って。自分たちができるんじゃないかって思ったことを、空想じゃなくって試したいだけなんです」。

秀紀さんはこう続ける。「20世紀までの人類は、未だ見ぬフロンティアを探し求めてきた。外へ外へ、内へ内へ。その結果がスペースシャトルだし、原子力だった。もういいじゃんって、正直思う」。

文明によってヒトのできることが拡張されればされるほど、生き物として弱ってはいないか。
先祖が培ってきた生きる知恵を、自ら進んで忘れてしまったのが、僕たちではないか。

大事なことは日々の暮らしの中にこそある――
ふたりはそう信じて、暮らしの中を冒険することにした。

「暮らしかた冒険家」

研究家でもなく、評論家でもなく、冒険家。

菜衣子さんは言う。「町屋に住むことも、薪ストーブを使うことも、味噌作りも、すべて冒険。不便なことだって、『冒険』って考えれば、なんだって楽しく思えてくる。冒険って聞くと、なんだかワクワクしてきませんか?」

社会がどんどん変わり続けているのに、自分だけは変わらないでいるなんて難しい

別にみんながみんな冒険しなくてもいいと思う。
危険を冒すのが、冒険。だけど無茶すればいいってもんじゃない。
生きて帰ってくることもまた冒険なのだ。


「でも、社会がどんどん変わり続けているのに、自分だけは変わらないでいるなんて難しい。こんな世の中だから、冒険しないほうがリスクだと、正直思う。自分から思いっきり変わっていくんだ。適応し続けていくんだ。別にしたくてやっているんじゃない。必要に迫られてやっている。死なないでいるために。」と秀紀さんは言う。

生きるとは、家とは、幸せとはなんだろうか――。
ふたりの話の中からなにかヒントが見つかった気がする。

暮らしの中に、忘れてきたたくさんの大切なことがある。
それらをひとつひとつ見つけながらこれからもふたりの冒険は続いていく。

 

*1 弊町屋 #heymachiya … 熊本の城下町にある築100年の町屋を自分たちで改装しながら暮らしている。
*2 結婚キャンプ… 高尾山のキャンプ場で友人100人を呼んでの結婚式を行った。会場装飾から食事、音響までを友人の手を借りて自分たちで作り上げた。 http://greenz.jp/2010/10/26/outdoor_wedding
*3 ちゃんとたべもの … 「世界はきっと台所から変わっていくんだ。」一人ひとりがちゃんと日々の暮らしを見つめなおすことでしか社会は変わらないと考えるふたりと大地を守る会のプロジェクト http://www.daichi.or.jp/ttp/
*4 島根県隠岐郡海士町 … 島民の1割がIターンで構成され、地域再生の先進地として注目されている。友人はそこで巡の環という会社を経営している。 http://www.megurinowa.jp/

■暮らしかた冒険家 #heymeoto 
■Facebookページ:
■Twitter
夫/池田秀紀 @ikedahidenori
妻/伊藤菜衣子 @SaikoCamera



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